雨宮:ありますよ。時間が流れていく感覚がぜんぜん違いますしね。パリではゆったり好きなことを書いたり、のんびりお茶をする時間もありましたが、日本でこの仕事をしていると、なかなかそうもいかないです。
林:今、あわただしいでしょうけど、「NEWS23」のキャスターといえば、この職業を選んだからにはすべての人が憧れる椅子ですから、やっぱり素晴らしいことですよね。
雨宮:今は与えていただいたことに最大限に応えていくしかないですね。パリから離れて、よりパリの良さがわかる部分もありますけど、またパリに戻ると「東京の日々がなつかしいな」ってなるんだと思います。
林:17年の間に、アナウンス技術が失われたりはしなかったですか。
雨宮:元から高い技術を持ち合わせているわけではないので(笑)。ただ、アナウンス技術自体は、必死に取り戻そうと思えば元に近づけると思うんです。でも、求められるものは、技術よりさらに上の部分なので。
林:雨宮さんに求められているのは国際的な視点ですよね。パリに住んで外から日本を俯瞰してきたご経験も含めて。テロにも遭遇されたし。
雨宮:俯瞰ももちろん大事だと思うんですけど、日本のニュース番組はフランスのそれとはまったく違う流れがあって、日本はより中立で、公正な目を求められるんだなということを、あらためて思いました。
林:フランスは、キャスターも自分の考えをガンガン言っていいんですか。
雨宮:キャスター個人の考えなのか、あるいはその局のカラーもあるのかわかりかねますが、どっちか寄りの発言をしたり、ブラックユーモアをこめることはよくあります。自国はもちろん、他国のトップや政治家、著名な批評家などをカリカチュアして遠慮なく批判をこめてからかったりします。
林:「国際感覚」って言葉も古くさいけど、それが「NEWS23」で役立ったこともありますか。
雨宮:空気を読みすぎないで、無知なくせに変に大胆なところは、たぶんフランスの影響だと思います(笑)。「控えめ」とか「謙虚」という言葉は向こうでは美徳にならないので、そういう変な図々しさみたいなものはあるかもしれないですね。