AERA 2023年2月20日号より
AERA 2023年2月20日号より

──昨年リリースした2曲については、意図的にこれまでと違う場所に届けようとしたということですか?

星野:日本の人への届け方と、日本以外の場所への届け方とは、やはり違うと思うんです。でも「喜劇」を作る時は、そういう垣根をなくしたいなと思っていて、それが自分のやりたい音楽を素直にやれば実現できるんじゃないかという感覚だったんですね。日本のポップスの標準に合わせる必要はまったくないんじゃないかって。

「異世界混合大舞踏会」の場合は、自然発生的にダンス動画を流行(はや)らせたいと思っていて、そうしたら実際その通りになりました。「ゴーストブック おばけずかん」という、子どもたちがたくさん観にいくような映画の主題歌でしたけど、子ども向けのサウンドではないのに踊ってしまう、大人が聞くとメッセージが浮かび上がってくる、そういうやり方はたぶんソーシャルメディアと相性がいいだろうなと。あと最近、サビをわかりやすくくり返すことを全然やってなかったので。

──確かにそうですね(笑)。

星野:コピーするのが大変ですって言われるような曲ばかりだったので(笑)、それを久々にやりたかったということも含めて、自分のやりたいことができたと思います。そうしたら、今までのファンの方とか、映画を観た方以外の方にも広がったので、すごくよかったです。

■そこには驚きがあった

──そういった1年を経て、2月15日には2017年以降に発表されたミュージックビデオ(以下MV)をすべて収める、MV集の第2弾がリリースされます。星野さんはMVの制作を大事にしてきた方ですが、そもそもMVとはこれまでどう接してきましたか?

星野:僕が10代の頃は、CS放送の音楽チャンネルに入っていないと、なかなか観られなかったんです。だから友だちの家へ遊びにいった時に、そこでMTVを観るみたいな。でもその5分くらいの映像の中に、こんなに面白い世界があるんだという驚きがあったんですね。

 ただ僕が音楽をやり始めた20代の頃は、MVが冬の時代に突入していて、音楽不況もあり、業界がそこにお金をかけなくなっていたんです。それならアイデアで勝負しようと。だからサケロック(かつて所属したバンド)では自分でアイデアを出して、演出もして、編集までするようになったんです。とにかく自力でがんばるぞって。それでスキルが身についたのは、今思えばよかったと思います。

 その後、ソロでも同じような考え方でやっていて、そうしたらいつの間にかYouTubeが登場して。今ではMVがすっかり欠かせないものになりましたよね。初めの頃は100万回再生まで行けばとんでもない快挙でしたけど、もはや規模が変わって、100万回でも少なく感じる。

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