「つけたけどうるさいからとあきらめてしまう人は多くいます。ほかにも、補聴器について誤解している人、補聴器を買ったけれど聞こえなくて困っている人がたくさん当院を受診しています」(新田医師)
補聴器に対する誤解や偏見として多いのは、「補聴器は(眼鏡店や通販で)自分で選んで購入するもの」「つけても聞こえが改善しないのは、補聴器が不良品、あるいは安物だから」「つければ聞こえていたころの聴力が100%回復する」「補聴器は大きくて目立つのでカッコ悪い」などが挙げられる。
「そういう人にはまず、補聴器をつけてもすぐ快適に聞こえるようにはならないこと、それは補聴器が悪いのではなく、補聴器の調整のしかたや使い方が正しくないためであることを説明し、聞き取れるようになるためには『補聴器による聞こえ』に慣れるためのトレーニングが必要なことをお伝えします」(同)
岡田さんは、同センターで詳しい聴力検査をし、聴力に合わせて補聴器をこまかく調整してもらった。そして、補聴器による聞こえやトレーニングについての詳しい説明を受け、もう一度補聴器を試してみることにした。
再び補聴器をつけたときも、やはり最初はとてもうるさく感じた。しかし前回と違ったのは、岡田さんが「最初はうるさくて当然」と理解していたことだ。同センターでは、トレーニング期間中は週に一度受診日を設け、補聴器による聞こえの検査や補聴器の調整をおこなう。そのたびに「今はうるさくてつらいと思いますが、あと少し、がんばりましょう」と励まされた岡田さんは、「補聴器を自分の身体の一部にしよう」と思い、入浴するときと寝るとき以外はずっと補聴器をつけ続けた。すると、だんだん慣れてきて、補聴器をつけていることが苦ではなくなったのだ。
半年を過ぎた今では、うるさいと感じることもなく、以前と同じように電話で娘と話せるようになり、友人たちとの会話の輪にも入れるようになった。岡田さんはトレーニングを経験し、「補聴器をちゃんと使えるようになるためには、聴力に合わせてこまかく調整してもらうこと、何カ月か使い続けて慣れることが必要なこと」を初めて知ったという。
岡田さんは一度の失敗であきらめずに再挑戦し、補聴器を心強いパートナーにすることができた。しかし、「世の中には誤解したまま補聴器を使うことをあきらめ、聞こえないことをがまんし続けている人がたくさんいる」と新田医師は話す。(ライター・出村真理子)
※週刊朝日 2018年11月30 日号より抜粋