さて、話を元に戻します。歯科材料の開発は急速に進んでおり、補綴物や入れ歯には使い心地がよく、からだに安全でやさしい材料がたくさん登場しています。このため、補綴物や入れ歯の床については患者さんの選択肢が多くなり、料金も安価なものから、10万円を超える高額のものまで幅があります。
■費用や材料の特徴をよく聞いたうえで、最適なものを選ぶ
例えば白いクラウンにもさまざまなものがあります。最も安いのは白いプラスチックの硬質レジンで1本6万円くらい(ただし、前歯には保険が使えます)。しかし、プラスチックの特性上、変色したりにおいがつきやすかったりという欠点があります。
この欠点を補い、天然の歯に近いものを実現したのがセラミックスを使ったクラウンです。セラミックスは陶磁器などに使われている素材を歯科治療に応用しています。陶磁器をイメージすればわかるように、光沢があり、硬く丈夫なのが特徴です。
このセラミックスにも複数のタイプがあります。費用が安い順にセラミックスとプラスチックを合わせた「ハイブリッドセラミックス」、金属の表面にセラミックスを焼き付けた「メタルボンド」、100%セラミックスでできた「オールセラミックス」です。
オールセラミックスは強度、色ともに一番天然の歯に近いとされています。銀歯などと比べるとプラークがつきにくく、歯を清掃しやすいというメリットもあります。一般的には10万円くらいから、というところが多いようです。
さらに最近では人工関節にも使われているジルコニアという素材を使ったクラウン(ジルコニアクラウン)も登場しています。
どの材料で作るかは、人それぞれです。見た目だけでなく、大事な口の中に入れるものだからこそ、「できるだけいい材料を使いたい」という人もいます。「金属アレルギーがあるから、からだにできるだけ安全な材料で」という患者さんも増えてきています。
それぞれの材料の特徴やメリット、デメリットは、料金とともに歯科医師がきちんと説明してくれるでしょう。さらに患者さん側からは疑問点などを遠慮なく聞いていただき、ご自身のニーズに合わせ、最適なものを選んでほしいと思います。
◯若林健史(わかばやし・けんじ)
歯科医師。若林歯科医院院長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演