むし歯治療でかぶせものをするときに、「健康保険が使える銀歯なら約4000円、セラミックス(白い歯)だと約12万円ですが、どうしますか?」などと聞かれることがあります。この料金の違いは何なのでしょうか? なぜ、歯科医師は治療費が違う複数の選択肢を用意するのでしょうか? テレビなどでおなじみの歯周病専門医、若林健史歯科医師に疑問をぶつけてみました。
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歯科の治療には大きく分けて保険診療で行うものと、自費診療で行うものとがあり、自費診療にはさらに複数の選択肢があります。「松」「竹」「梅」のように、料金の違いでコースを提示されたら、患者さんは高級な「松」は自分にはちょっとぜいたくで、お安い「梅」ではあまりにみすぼらしい……なんて思考がめぐって、真ん中の「竹」でいいかなと選んでしまう人もいるのではないでしょうか。
でも、歯科の治療費の違いは、そんな単純な比較はできません。詳しく説明していきましょう。
まず、むし歯や歯周病などはその多くが保険診療で行われています。保険診療ではすべての治療が保険点数化されており、その点数から治療費が算出されています。材料も決められたものしか使えません。
しかし、それでは患者さんの選択肢が狭まってしまいます。例えば、奥歯のかぶせものは保険診療だと銀歯(金銀パラジウム合金)が主体です(最近はCAD/CAMシステムを用いたハイブリッドレジンによるかぶせものが、条件がそろえば保険適用になりました。しかし、強度があまり強くないため割れる可能性があります)。しかし、口を開けたときや笑ったときに金属が見えるのが気になるので、「自費でもいいから白い歯にしたい」と強く希望する人は多いと思います。
医科も歯科も、保険診療と自費診療の併用(混合診療)は認められていませんが、このような場合を厚生労働省は「選定療養」として考慮して、両者の併用を認めています。
具体的にはブリッジ、クラウン(かぶせもの)などの補綴(ほてつ)物や入れ歯(義歯)の床(しょう、粘膜にのせる部分)が選定療養の対象で、途中までを保険診療で行い、材料を作る段階で自費診療でないと作れないものを選択肢に入れていいことになっています。
実は保険診療と自費診療の違いはこうした材料以外にもさまざまなものがあります(次回に詳細)。しかし、日本の歯科医師は腕がよく、ほとんどの患者さんは保険が使える治療を希望するため、材料の違いくらいしか自費診療のメリットを知る機会がないのが本当のところです。