ツアー・ファイナルを現地で取材するスポーツライターの内田暁さんは、錦織の精神面に注目する。

「錦織選手は試合中にガッツポーズやネガティブな態度も含めて、あまり感情を表に出さないほうでした。その彼が今年は試合中に『カモン!カモン!』と言い続けて自分を奮い立たせたり、良いポイントを取った時に声を出す姿が見られましたし、本人もポジティブな姿勢を取ることを心がけていたと言っていました」

 内田さんは試合以外にも精神面のちょっとした変化を感じた。全米オープンで大坂なおみが優勝した後、東京での楽天オープンの際のマスコミ対応を例に挙げた。錦織が記者に、大坂から刺激を受けたかと聞かれた時に、大坂にメディアや一般の人々の注視が向けられると、自分へのプレッシャーが減るので助かる……という主旨のことを述べた上で、茶目っ気いっぱいに「なおみちゃーん!がんばれー!」と声を張った。

 こういったちょっとした冗談は以前にはあまりなく、内田さんは感心した。

「元々ユーモアのセンスはあったとは思うのですが、(初めて)トップ10に入った頃から、プレッシャーを感じてそういう部分を忘れていたと思う。そういう意味でリラックスしている雰囲気はできていました」

 ファンはやはり錦織に4大大会での優勝を期待してしまう。果たして来シーズンこそは初戴冠できるだろうか。杉山愛さんも期待する。

「(4大大会での優勝を)期待したいところですよね。まだまだジョコビッチ、フェデラー、ナダルとの壁はあると思います。トータル面で見るとと3人の強さは突き抜けています。錦織選手にはそこの差を縮めてほしいです。今年は怪我をしっかり治して、1月終わりからは元気に戦い切り、最後は尻上がりに良くなった。オフシーズンにリフレッシュしながら、体を追い込んで、2019年の最初から良いスタートダッシュをきってほしいです」

 困難な時期を乗り越え、這い上がって一回り強くなった錦織。来年は今までと違う強さを見せてくれるに違いない。(本誌・大塚淳史)

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