カプサイシン受容体はカルシウムを細胞の中に取り入れる窓であり、カルシウムの濃度が上昇した細胞が活性化します。皮膚では末梢神経のカプサイシン受容体が活性化すると、痛みだけでなくかゆみとして脳に伝達されます。

 このカプサイシン受容体ですが、イオンチャネルである窓を開け閉めする刺激がいくつか決まっています。カプサイシンそのものも刺激になりますが、ほかに代表的なものとしてかゆみの成分であるヒスタミンがあげられます。ヒスタミンのシグナルが入ると、末梢神経ではカプサイシン受容体という窓が開き、カルシウムが細胞内にどっと流れ込むことで末梢神経が活性化し、かゆみとして脳に伝わります。

 かゆみも痛みも、皮膚では同じカプサイシン受容体を介して脳に信号が伝わります。

 痛みが加わると、カプサイシン受容体の反応性が低下します。そのため、ちょっとやそっとの刺激ではカプサイシン受容体の窓が開かない状態となります。蚊に刺されたかゆい部分に熱いお湯をかけたり、たたいたり、血が出るまで引っかいたりするとかゆみが治まるのはこのためです。

 カプサイシン受容体のイオンの窓を開けるのは、ヒスタミンだけではありません。熱刺激や機械的な刺激でもこの窓は開きます。そしてイオンの窓を開ける熱刺激の温度が43度なのです。

 熱いシャワーやお風呂が好きな方もいると思います。43度以上のお湯は皮膚の末梢神経に作用してカプサイシン受容体を介した痛み、かゆみを引き起こしてしまうことは説明したとおりです。このため、43度以上のお風呂は痛みやかゆみを誘発してしまうためおすすめできません。特にアトピー性皮膚炎を始めとするかゆみを伴う皮膚疾患は、症状悪化につながります。ご注意ください。さらにもう一点、一般の方も43度以上のお湯を避けたほうが良い理由があります。それは43度が細胞にとって死を誘導する温度だからです。

 細胞は43度になると死にます。この熱による細胞死を治療に応用しようとする試みが、がん温熱療法です。がん細胞のみ43度に熱することができれば理論上がん細胞は死滅します。しかし、がん温熱療法はすべてのがんに効果が実証されているわけではありません。現在のところ、ラジオ波やマイクロ波を使った治療が保険適応となっています。

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