居酒屋の牢名主的メニュー「銀ダラの西京焼き」も必ず切り身である。
つまり、魚の全身丸ごとの姿は見ようと思っても見られないのだ。
築地に行けば見られる。
築地の和食の店「高はし」と「かとう」のメニューに、金目鯛の丸ごと煮、いさきの丸ごと焼きなどがあることを、ぼくはテレビのグルメ番組を見て知っていた。
そうだ、築地最後の日のメニューとして丸ごとの魚を食べよう。
この連載は「丸かじりシリーズ」でもある。
築地へ行って丸ごとの魚を食べ、ビールの丸ビンを飲めば、三方丸く収まってメデタシメデタシということになるではないか。
サヨナラ築地まであと15日という9月21日雨天決行。
朝の11時半、築地到着。
あいにくの雨にもかかわらず築地場内は人人人、傘傘傘、傘傘傘の下に人人人。
ここに群れ集まっている人々の表情には独得のものがある。
それは渋谷の109の前の人々の表情とも違い、丸の内あたりの人々とも違い、あの、ホラ、天使の頭の上に浮いているワッカがありますね、あのワッカが魚の絵に入れ替わってる図を想像してください。
ここにいる人々全員の頭の上に魚のワッカ。みんな魚で浮かれているのです。
「和食かとう」は間口一間半。
細長い箱型の店の両側にカウンターがあって16席。
店内はほぼ満員でようやく入店。
メニューを見てとにもかくにもまずレンコダイの煮付け(2000円)を注文。
牡丹御膳という刺身盛り合わせもとる。マグロ、ブリ、ヒラメ、銀じゃけ、キビナゴが大皿に盛りつけてあって2500円。
丸ごとレンコダイは大皿いっぱいの大魚で頭、しっぽ完備。威厳がある。
大きな魚が煮付けられている全身像をようく鑑賞したのち、胸のあたりをホジらせていただいてゴハンを一口。
積年の夢、今こそ。
刺身の大皿に取りかかる。
皿がデカい。タテヨコ30センチはある木の板に巨大な刺身が盛りつけてある。
そう、巨大。巨大としか言いようがないほど刺身の一切れが部厚く大きい。居酒屋の刺身のおよそ5倍の容積。