東京都の築地市場(中央区)は10月6日、80余年の歴史に幕を閉じる。世界中から様々な魚、野菜、果物などを集め、首都圏の台所を支えてきた。週刊朝日で「あれも食いたい これも食いたい」を連載中の東海林さだおさんが台風の中、築地をルポ。最後の宴として選んだお店は?
平成の時代がもうすぐ終わる。
来年(2019年)の4月30日が平成最後の日となる。
あと半年とちょっと。
ということになってくると「平成最後の〇〇」という言葉がしきりにあちこちで使われるようになる。
「平成最後の秋」とか「平成最後の除夜の鐘」とか……。
ぼくはつい先日久しぶりに鰻重を食べたのだが、たぶんこれが「平成最後の鰻重」ということになると思う。
平成最後のどんづまりの4月20日あたりになると世の中は「平成最後の〇〇」だらけになる。
「平成最後の目刺し」「平成最後の切り干し大根の煮付け」……。
4月30日の夜に見た夢は「平成最後の夢」、もしその夜夢を見なかったらその前日の夜の夢が繰りあがって「平成最後の夢」になる。
世情騒然を危惧していたところ、それよりもっと切羽詰まった「最後の日」があった。
「築地最後の日」である。
平成30年10月6日、83年の歴史を誇る築地市場が幕を閉じるのだ。
あせった。
その日を何もしないでボーッと過ごすわけにはいくまい、と思った。
何かしないと損だ、という考えでもないのだが、何かしないと損なような気もする。
行って何をするか。
行って何も食べないで帰ってくると損をするような気がする。
何を食べるか。
「築地へ行ったら寿司だろ」
という声が圧倒的だが寿司なら築地がなくなってもいつでも食べられる。
「丸ごと一匹の煮魚、もしくは焼き魚」というイメージが急浮上した。
なぜか。
ぼくは定食屋によく行くのだが、定食屋には「丸ごと一匹もの」というメニューはまずない(除く目刺し)。定食屋の代表メニュー「鯖の味噌煮」は切り身である。