ジャーナリストの田原総一朗氏は、自民党総裁選を振り返る。
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9月20日の自民党総裁選で、石破茂氏が予想外の大健闘をした。国会議員票はせいぜい五十数票と見られていたのに73票を獲得し、地方票は150票取れれば健闘と見られていたのに、なんと181票を獲得した。おそらく、石破氏自身も予想していなかった成果だと思う。
ということは、自民党議員にも自民党員にも、安倍首相に対する不満、そして不信感が予想外に強かったわけだ。私は一強多弱が続くなかで、安倍首相は神経がゆるみ、傲慢になっていた、と捉えている。
たとえば、森友・加計問題だ。
安倍首相は国会で、「もしも私や妻が森友学園の認可や、土地売却に関わっていたら、首相も議員も辞める」と言った。安倍首相がこんなことを言ったから、財務省は慌てて決裁文書を改ざんし、しかもそれを国民に隠蔽するつもりだった。こんなことは民主主義の国ではあってはならないことだ。朝日新聞がそのことを3月2日に報じて大問題となり、財務省はそのとんでもない事実を認めざるを得なくなった。当然、最大の責任者は麻生財務相である。私は3人の自民党幹部に「麻生氏はどうすべきか」と問うた。誰もが「麻生氏は辞任するだろう」と答えた。だが、麻生財務相は辞任せず、しかも決裁文書の改ざんについて、「個人的な行為であって、財務省には責任がない」と言った。この発言で、問題がますます深刻化した。
さらに加計疑惑だが、安倍首相は加計学園から賄賂の類を得ているわけでなく、獣医学部新設についての諮問会議を開くときに、“私は加計孝太郎氏と40年来の友人だが、だからといって甘くしないで、厳しくやってほしい”と言っておけば何の問題も生じなかったはずである。厳しくやってほしい、と言ってもメンバーは忖度をするだろう。ところが、安倍首相は面倒くさいと思ったのか、「知らない」と言ってしまった。だから大問題となり、政治家や官僚たちがリアリティーのない嘘をつかざるを得なくなった。私はのちに、メンバーの何人かに、「なぜ安倍首相は、厳しくやってほしい、と言わなかったのか」と問うと、「田原さん、なぜそのことを早く安倍首相に言わなかったのか」と逆に問われた。