感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生の連載が始まる。「ワインにまつわる話」、特に「微生物が行う発酵」「ワインと健康の関係」「ワインの歴史」についてお伝えしたい。
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2015年、ワイン愛好家として有名だったタレントの川島なお美さんが、胆管がんで逝去した。享年54。「私の血はワインでできている」と豪語したくらいのワイン好きでもあった。そのとき、こう考えた人もいただろう。「彼女が愛好したワインが胆管がんの原因になったのではないか」
■男性2%・女性3%以下……比較的まれな「胆管がん」
がんの原因はいろいろある。例えば、肺がんの(多くの)原因として喫煙を挙げる人は多い。ピロリ菌という菌の感染が、胃がんの原因になることをご存じの方も多いだろう。では、ワイン(アルコール)は胆管がんの原因となるのであろうか。
胆管とは右の脇腹についている肝臓から、胃の先にある十二指腸に向かって伸びている管のこと。肝臓で代謝された物質は胆汁の成分となり、ここを通って腸に捨てられる。胆管がんはこの管にできるがんのことをいう。
胆管がんは、比較的まれながんであると言えよう。国立がん研究センターがん情報サービスによると、日本でのがん罹患全体を分母とした場合、男性では2%、女性では3%を占める。これは胆のうがんという、似たようであって異なるがんも合わせた数である。したがって、胆管がんの数は実際にはもっと少ないだろう。
2010年の胆のう・胆管がんの罹患者は男性約1万1300例、女性は約1万1300例。2013年の胆のう・胆管がん死亡数は、男性約8900人、女性約9300人であった。報告年が異なるなど、データ上の瑕疵(かし)があるために、厳密には正確なところはいえない。しかし、ざっくりといえば、男女ともに死亡率が8割程度であるために、死亡率が高いがんであるといえる。