京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師
京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師
ほくろとメラノーマの違い
ほくろとメラノーマの違い

 がんと聞くと、大腸がんや肺がんなどの体内にできるがんをイメージしがちですが、皮膚にできる「皮膚がん」もあります。自分で見ることができるため、がんである可能性に気づければ、早期発見につながります。京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師が、ほくろとがんの見分け方について解説します。

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「ほくろのがん」とも呼ばれるメラノーマ(悪性黒色腫)をご存じですか? メラノーマは皮膚がんの一種で、見た目はほくろとよく似ています。漫画「巨人の星」に出てくる星飛雄馬の初恋の人、美奈さんはメラノーマができた指で夜空を指し「死の星」と表現しています。実際、その後若くして命を落とすストーリーになっています。

 メラノーマは数年前まで、抗がん剤も放射線治療も効かない怖いがんと考えられていました。近年は、免疫チェックポイント阻害剤を含む新規薬剤が登場して効果が期待できるようになりましたが、早期発見できれば、がんを切除することで治すことができます。

 早期発見のためには、自分の皮膚を定期的に観察する「セルフチェック」が必要です。では、どうすれば、ほくろとメラノーマを見分けることができるのでしょうか? ここではそれらを区別する方法「ABCDルール」を紹介したいと思います。ただし、あくまでもこの方法は診断の補助に使うものです。疑わしいほくろは早い段階で皮膚科専門医の診察をうけることをお勧めします。

■ABCDルール

 ABCDルールは、医学部生が皮膚科で勉強するメラノーマとほくろの見分け方です。医師国家試験でも頻出されます。ABCDルールを基準にほくろを観察すれば、メラノーマかどうか見分ける手助けになります。

A (Asymmetry:左右非対称)
 メラノーマは左右非対称の形をしていることが多いです。図のように中心で線を引いてみて、左右が同じ形をしているかどうかで判断します。左右非対称ならメラノーマの可能性があります。

 ではなぜメラノーマは左右非対称になるのでしょうか? それは腫瘍内のがん細胞の多様性によるものです。がん細胞はそれぞれひとつひとつ違っています。一見ひと固まりのメラノーマのように見えても、実際はさまざまなメラノーマ細胞の集団で構成されています。その中で増殖速度が違うメラノーマ細胞が組み合わさることで左右非対称性が生まれます。増殖の速い細胞集団は早く拡大し、増殖が遅い細胞集団はあまり形を変えません。結果として、不均一な形となって左右非対称として私たちの目に映ります。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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