アナウンサーとして駆け出しだった20年前の馬場典子さんが内弁慶で“落ちこぼれ”だったと聞けば、驚く人も多いかもしれない。失敗と試行錯誤の末に、日本テレビの看板アナへと成長。フリーとなり、7月からNHK「あさイチ」のプレゼンテーターに就任した馬場さんが、相手に心が届き、言葉が「伝わる」ための5つのヒントを教えてくれた。
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あれは入社して間もない新人時代のこと。
「そういえばこの前のナレーション、〇〇さんで取り直したんだよね」
音声さんがポロッと漏らしたひと言は、衝撃でした。あまりに下手で、手がつけられなかったのでしょう。ディレクターさんはその場で一応のOKを出し、後日こっそり先輩で取り直していたのです。これからまた録音だというのに泣きそうなり、逃げ出したくなりました。
アナウンサーの肩書をもらったところで、すぐにうまくなるわけではありません。「悪声」と言われたことさえありました。
それから20年。「説明が分かりやすい」「ナレーションがしみる」と言っていただけるようになりました。
私の場合、しゃべるのがうまいからアナウンサーになったのではありません。アナウンサーになれたおかげでしゃべれるようになり、声もよくなり、伝えられるようになったのです。
思いを人に「伝える」
単純に、アナウンサーの技術を磨けばいいわけではありません。アナウンサーの仕事を通じて学んだのは、コミュニケーション力とは、スポーツの世界で言う、心技体を磨くことに通じる、という思いです。
心技体の核となるのは、「心」。つまり、相手に敬意を払い接することです。
相手に気持ちを伝えるために私が大切にしていることがいくつかあります。
【1】 「伝える」と「伝わる」を区別する
たとえば失敗した部下に対して。頑張ってもらいたい思いで叱咤激励したとします。しかし、部下の反応は、奮起するどころか元気なく「……はい」と、返事をするだけ。