大センセイが認める巧妙な「意地悪」(※写真はイメージ)
大センセイが認める巧妙な「意地悪」(※写真はイメージ)

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さん。今回は「意地悪」をテーマにおくる。

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 若い人は知らないと思うけれど、かつて『意地悪ばあさん』というテレビドラマがあった。後に東京都知事になる青島幸男が、主人公の婆さんを演じていた。

 意地悪ばあさんの意地悪は計画的かつ無慈悲だったが、大センセイ、このドラマを見るのが好きだった。

 当節流行のハラスメントは職位や制度を利用して行うものだから、あんまり頭を使わない。バカでもできる。しかし意地悪には、周到な計画とそれを実現する行動力が必要だ。だから、バカにはできない。

 意地悪ばあさんは賢かった。賢い婆さんの意地悪ぶりが、痛快だったのだ。

 あれは、小学校二年生のことであった。当時、大センセイの一家は、札幌の定山渓温泉からさらに山奥に入った、豊羽(とよは)というヤマ(鉱山)で暮らしていた。

 豊羽は豪雪地帯だった。冬の間三メートル近くも雪が積もる。平屋は雪に埋もれてしまうから、窓ガラスが雪の重みで割れないように板を打ちつけてしまう。だから雪解けが来るまで、家の中は昼でも暗かった。

 ヤマには「ストア」と呼ばれるよろず屋が一軒あるきりで、駄菓子屋もおもちゃ屋も映画館もなかったから、冬はスキーか雪遊び以外やることがなかった。

 大センセイは新雪の上のウサギの足跡を追いかけたり、崖の上から雪だまりに飛び込んだりして冬の放課後の大半を過ごした。

 いま思い出しても実にダイナミックな遊びをしたものだが、女の子と大人たちは退屈だったに違いない。文字通り雪に閉ざされた暗い室内で、数か月を過ごさねばならなかったのだ。

 同じクラスにノサカさんという女の子がいた。ノサカさんは意地悪で有名な子だったが、なぜか大センセイは彼女の毒牙にかかったことが一度もなかった。

 冬のある日、ノサカさんが声をかけてきた。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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