主治医の伴先生はこの状況を、「これまでがんを抑え込んできたが、箍(たが)が一挙に外れ、がんが暴れだしたようだ」と診断されていた。抗がん剤が効かなくなった現在、私のがん治療もいよいよ最終段階に入ったようだ。
しかし思い返してみると、がん発覚後これまで2年間、終わりのほうで腫瘍マーカーは上昇してきたが私の日常に影響はなく、ほとんど健常者並みの生活を送ってきた。
文字どおりに「がんとの共存」を達成してきたことに、私は家内とともに改めて感謝した。これから暴れだしたがんと、どう向き合うかが問題となってきた。
■幸せな環境も終わり? 背中の痛みが絶えず気になる
私が末期がんでも2年間、元気でいられたのはひとえにがんからの直接の攻撃がなかったからである。
すい臓がんは黄疸(おうだん)のほかに、腹部や背中に痛みをもたらすことがよく知られている。
5月中旬に、居間のソファで読書をしていた折、気のせいか背中に違和感があり軽い痛みを感じだした。
かねがね気になっていたので、いよいよがんが悪さを発揮し始めたかと心配になりだした。この幸せな環境がついに終わりかと、暗い気持ちになったものだ。
がんからの初メッセージなのかと、その後数日間、時折この痛みが気になった。
しかし、そのうち次第に痛みも気にならなくなり、いつもの状態に戻ってきた。膝痛、腰痛が起こるといつもがんの骨転移が疑われるが、今回は腫瘍マーカーが急上昇していた最中なので一層心配させられた。これもがん患者の特有の悩みなのだろう。
だが6月に入ると背中の痛みが「時折感じる程度」から、「絶えず気になる」段階になってきた。
6月2、3日の週末、かねての約束のどおりに教え子たち(ゼミの第1~4回の卒業生)と箱根へ1泊旅行に出掛けた。夕食に飲んだワインが引き金になったのか、痛みが顕在化し一晩じゅう悩まされた。
■強烈な副作用と消えた食事の楽しみ
1週間後に伴先生の診察があったので早速この症状を訴えたところ、がんの周囲への浸潤が痛みをもたらしているとのこと。このために痛み止め薬(オキシコンチン、セレコックス、カロナール)を処方してもらったが、これが次の悩みをもたらした。