石弘光(いし・ひろみつ)1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など
石弘光(いし・ひろみつ)1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など
この記事の写真をすべて見る
教え子たち(ゼミの第1~4回の卒業生)と箱根へ1泊旅行。夕食のワインが引き金?となり、一晩じゅう痛みに悩まされた
教え子たち(ゼミの第1~4回の卒業生)と箱根へ1泊旅行。夕食のワインが引き金?となり、一晩じゅう痛みに悩まされた

 一橋大学名誉教授の石弘光さん(81)は、末期すい臓がん患者である。しかも石さんのようなステージIVの末期がん患者は、5年生存率は1.4%と言われる。根治するのが難しいすい臓がんであっても、石さんは囲碁などの趣味を楽しみ仲間と旅行に出かけ、自らのがんを経済のように分析したりもする。「抗がん剤は何を投与しているのか」「毎日の食事や運動は」「家族への想いは」。がん生活にとって重要な要素は何かを連載でお届けする。

【写真】一晩じゅう痛みに悩まされた箱根旅行

*  *  *

 抗がん剤治療の分岐点に達し、5週間休薬してがんの変化を自然体に任せたが、残念ながら5月に測定した腫瘍マーカーは601.1まで上昇していた。

 私にとってCA19-9が急上昇する中で、5週間何もしないというのはひとつの賭けであった。たしかに抗がん剤自体の治療負荷もあるだろう。だがそれを中断した治療面でのプラスを上回るがんの攻撃によるマイナスが、がんの病変を悪化させる恐れも十分にあり得ると覚悟をしていた。

 そこでこの上昇を抑えるべく、ゲムシタビンを単体で2週間に1回、再投与することにした。

■抗がん剤の抑制が効かず、がんが暴れ出す

 しかしその効力は、あまり期待できないものであった。というのもゲムシタビンはかつて効かなくなった薬で、再使用しても急に効力を発揮するとも思えなかったからである。

 案の定、6月初めに測定したCA19-9は、1453.0という予想をはるかに上回る値になっていた。この日あわせて撮影したCT検査の結果もこれを裏づけるもので、すい体部のがん本体は4月まで20ミリそこそこであったのがおよそ1.5倍に増大していた。明らかに病変は、SD(不変―stable disease)からPD(進行―progressive disease)へと変化していた。

 とりわけこれまで比較的固まった形であったがんが、抗がん剤の抑制が効かなくなったために、周囲にじわじわと浸潤し始めたようだ。

次のページ
「がんが暴れだしたようだ」と診断