それは眠気、ふらつき、食欲不振、便秘という副作用が強烈であったということだ。

 服用後にすぐに仕事を妨害するほどの眠気に襲われるし、外出時にひとりでの歩行が心配なほど身体のふらつきを感じることもあった。

 何より困ったのは、あの旺盛な食欲がなくなり無理して口に押し込まねばならぬことであった。

 食事の楽しみが、全くなくなった。これまである程度順調であったQOL(生活の質)の維持は崩れ、日々の生活に支障が出るほどであった。
 
■二つの試み「放射線治療」と「ゲノム医療」 

 私の抗がん剤治療の行方に、にわかに暗雲が立ち込めてきた。

 このまま座して最終の治療段階を迎えるのか。まだやるべきことがあるのではないか。この中でニつのことを試みることにした。

 その一つが、背中の痛みを緩和するために放射線治療を行うことである。これは前々から、痛みが出たらやろうと伴先生が言っておられたので、早速実行に移した。

 6月中旬、放射線治療科の中川恵子先生から進め方について詳しい説明を受けた。その結果、具体的な治療として、1回2.5グレイ、16回、計40グレイを照射することになった。放射線治療中にも、減量するもののゲムシタビン投与と痛み止めの服用を続けてやるようにとの指示もあった。

 もう一つは、ゲノム医療への挑戦である。

 これからのがん治療はがんごとにその原因になっている遺伝子変異を調べ、それに適合する薬を投与するというものである。したがって臓器ごとのがん治療でなく共通する遺伝子変異の間で同じ抗がん剤を使用するとのこと。

 私の状況をみた何人かの医師から、ゲノム解析を試みてはとのアドバイスをいただいた。

 幸いなことに東京医科歯科大学病院では、血液検査だけでこの遺伝子変異を調べられるとのことであった。治療に役立つ結果が得られるとはあまり期待してないが、このゲノム医療に挑戦することにした。

※石弘光さんは、すい臓がんのため死去されました。今回のコラムは石さんが生前、がんと戦いながら執筆していたものです。ご冥福をお祈りします。

◯石弘光(いし・ひろみつ)
1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など

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