「シニアになると広い視野で物事を見られるようになるため、若手が見逃している点によく気づいたりします。そんな時に『お前たち、こうしなきゃダメだろ』と決めつけるのではなく、『自分だったら、こうするよ』くらいにソフトに言ってみる。そんなシニアが好まれます。また、職場には、誰かがやらなければならないのに、放置されている仕事が必ずあります。それを見つけて率先して行う姿勢も好まれます。頼まれたら断らないことも大切で、私は『かっこいい高齢者になろう』といつも言っています」
冒頭のIT企業の男性は、「かわいい」だけでなく「かっこいい高齢者」でもあるのだろう。
人事ジャーナリストの溝上憲文氏によると、シニアに対する企業の人柄重視は以前からあったという。
「再雇用希望者の雇用の是非を会社側が判断できた時は、判断基準の一つに必ず『会社が必要と認めた人』という条項がありました。人柄や協調性は、実はそこに入っていたんです。人をどこに配置するかを決める場合は、バランス感覚にすぐれた人などやはり人物基準が重視されます」
もちろん、人柄だけよければいいのかというと、そんなことはない。
「ホワイトカラーの場合、一定の専門スキルを持っていることは前提といってもいいでしょう。それだけで周りが尊重してくれて仕事がやりやすくなりますから。専門スキルがあると、周りにへりくだる必要がなくなります」(先の山田氏)
先の今野氏が言う。
「健康で働く意欲があることが前提ですが、職場で新しい役割を与えられたシニアに必要な能力は図の三つに集約されます。基盤となる能力ということで、『プラットフォーム能力』といっています」
一番大切なのは、【態度】の「気持ち切り替え力」だ。定年前の地位や働き方にこだわらず、新しい役割に向かうように気持ちを整理できているかを示すもので、こだわらない自分づくりが要求される。【行動】の「ヒューマンタッチ力」は、同僚と同じ目線で仕事ができるかを示すもの。例えば、自分の役割である会議の資料作りを若手任せにせず、自ら行えていれば合格だ。そして、【スキル】の「お一人様仕事遂行力」は職場で最低限必要なエクセルやパワーポイントなどを使いこなせるテクニカルスキルを指す。管理職を長く続けていると、この力が落ちていることが多い。
「再雇用でこの三つができていれば、少々専門スキルが落ちていても職場はウェルカムです。シニアに必要とされる『人柄力』の具体的な中身と言ってもいいと思います」
要するに、「一担当者」として淡々と仕事をこなせるか、ということなのだろう。