「100歳時代」などで職業人生はどんどん長くなっていきそうだ。と言っても、給料は激減、地位や肩書はなくなり、年下の上司につかえる日々。ただし、「愚痴の一つも……」はご法度。専門家は口をそろえて、「シニアが長く働きたいのなら、まず人柄、性格の良さ」とするからだ。
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「本日からは一介のスタッフになりますので、いま一度、あいさつに来ました。これからもよろしくお願いします」
IT企業の上級管理職だった男性は、こう言って職場を丹念に回ったという。
前日、60歳の定年を迎え、上級管理職として社員を前にあいさつをした。この日は退職して再雇用された初日。上級管理職としての「上から」ではなく、同じレベルの「横から」の声掛けを皆にしたかったのだろう。
「一介のスタッフ」になると男性は進んで雑用を引き受け、できそうなことを自ら探しもした。ある朝、早く来て用紙が切れているコピー機のトレーを見つけると、男性はすぐ会社にあるすべてのコピー機に用紙を補充して回った……。
企業の人事管理に詳しい学習院大学名誉教授の今野浩一郎氏が言う。
「どうですか。こんなシニアだったら、人気が出ると思いませんか。私たちはこうした職場で評判がいいシニアたちを、『かわいい高齢者』と呼んでいます」
「かわいい高齢者」とは、今野氏が参加していた人事関係の研究会での議論から生まれた言葉だ。何ともキャッチーなネーミングだが、「職場に受け入れられ、新しい役割のもとで活躍できるシニア」を今風に言うと、こうなるのだろう。
「60歳定年、65歳まで再雇用」──これが現在の企業社会での主流だが、人口減少などを考えると職業人生はさらに延びていく可能性が高い。個人の観点から見ても、「100歳時代」が現実のものになるにつれ、「できるだけ長く働きたい」と思う人が増えている。
となると準備は早いほうがいい。これからシニアになる人で長く働き続けたいのなら、「どんなシニアになればいいのか」を自ら意識するべきだろう。
「10年前、出向支援を始めた時から、『人間力』重視でやってきました」
こう話すのは、大日本住友製薬人事部の原田徳仁キャリア開発担当オフィサーだ。
同社は、50歳以降の幹部社員の活躍の場を「社外」に求め、資本関係のない中小企業などに働きかけるなどして社員を「出向」させてきた。その数は、10年間で170社500人に迫る。
候補者はキャリア開発担当者らと数回、面接をする。原田オフィサーによると、時間をかけて話していると、「人間力」を備えているかどうかが肌感覚でわかってくるという。