もし、あのとき、別の選択をしていたなら──。ひょんなことから運命は回り出します。人生に「if」はありませんが、誰しも実はやりたかったこと、やり残したこと、できたはずのことがあるのではないでしょうか。昭和から平成と激動の時代を切り開いてきた著名人に、人生の岐路に立ち返ってもらい、「もう一つの自分史」を語ってもらいます。今回は美容家・美肌師の佐伯チズさんです。
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3年前、信頼していた女性の裏切りに遭いました。彼女には、10年ほど私のマネジメントや会社の経営を任せていました。
彼女と、彼女が連れてきた男性に会社を乗っ取られたんです。言われるがままに出資した個人の2億円も、使途不明金のまま消えてしまいました。物販会社は私の手を離れ、「佐伯チズ」の商標の大半や、顧客名簿も持っていかれました。
手元に顧客名簿がないから、私を信じてくれていたお客さまに、事情を知らせることができないのがつらかった。済んだことをあれこれ言うのは好きではありませんが、私がこうして表に出て話すことで、わかってもらうしかないんです。
それまで第二の人生は順調だと思い込んでいました。ところが、人生ってそう甘くはないものですね。
――オードリー・へプバーンに憧れて美容家を志した。一つの転機は、42歳のとき。最愛の夫をがんで亡くし、お肌もボロボロになってしまった。
私は父母の愛情を受けずに育ったから、結婚したときは本当にうれしかった。チャーミーグリーンのコマーシャルがあったでしょ。おじいさんとおばあさんが手をつないで歩くシーン。ふたりでよく「ああいう夫婦になろうね」って言ってたの。
結婚したときに「私はせいいっぱいあなたに尽くしますけど、ひとつだけお願いがあります」って言ったの。「朝起きたときと、お出かけするとき、そして寝る前にはチューさせてください」って。主人はずっとさせてくれてたわ。ほら、私はヘプバーンに憧れてたから。