4日に心不全で亡くなっていた俳優の津川雅彦さん。そのわずか2か月半前、本誌の独占取材に応じ、体調が万全ではない中で、2時間近くに渡り、自分の人生について饒舌に語った。
津川さんへの取材が行われたのは5月中旬の都内。俳優人生を振り返ってもらうインタビューだった。その1か月前には妻で女優の朝丘雪路さん(享年82)を亡くしたばかり。本人も体調不良のため、一度は取材を延期していた。
この日の取材には車いすに乗って、鼻には酸素吸入のチューブをつけて登場。声がかすれるためか、何度もコップの水を口にしながらも丁寧に質問に応じた。
津川さんが自分の人生を語る上で、欠かせないのが俳優で兄の長門裕之さんの存在。兄の演技力の高さは手放しで褒めた。
「天才ですね。兄がいなかったら、僕の人生はまったく違ったものになっていたでしょう」
一方で、兄弟はいい意味でのライバルだったとも。
「世間からは、兄は芝居がうまいが、弟は顔がいいだけのド大根、ってののしられてね。しかし、まねしようのがない兄の個性ある役者っぷりがあったからこそ、僕も自分のやり方を探し続けることができた」
二枚目俳優からの脱却は、『必殺仕事人シリーズ』で敵役を演じたことがきっかけだと明かした。
「二枚目だと最初から最後まで変われないけど、悪いヤツってのは最初に好感を持たせておいて、後で裏切る。公衆トイレで、掃除のおばちゃんに『こいつは嫌なヤツなんよ』って言われたことも。役者冥利に尽きますね」
脚本家のジェームス三木、映画監督の伊丹十三、作家の渡辺淳一など大御所にかわいがられて、映画「マルサの女」NHK大河ドラマ「葵 徳川三代」などの代表作を残した。
「僕は兄と違って不器用なんですが、新派の花柳章太郎先生が、不器用は努力しないと器用になれない、その努力が魅力になる、と言ってくれました。伊丹、渡辺、ジェームスの御三方は、そういう不器用な津川雅彦を気に入ってくれたのかもしれない」