一橋大学名誉教授の石弘光さん(81)は、末期すい臓がん患者である。しかも石さんのようなステージIVの末期がん患者は、5年生存率は1.4%と言われる。根治するのが難しいすい臓がんであっても、石さんは囲碁などの趣味を楽しみ仲間と旅行に出かけ、自らのがんを経済のように分析したりもする。「抗がん剤は何を投与しているのか」「毎日の食事や運動は」「家族への想いは」。がん生活にとって重要な要素は何かを連載でお届けする。
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よく知られるように、抗がん剤治療には副作用がつきものである。
現在、標準治療として一般に使用されている抗がん剤は化学療法剤と称されるもので、投与されるとがん細胞のみならず正常細胞にもダメージを与えてしまう。具体的にこれが副作用となり、がん患者の身体にさまざまな悪影響をもたらすのだ。
■抗がん剤治療を進めるにつれて変わる副作用の数々
このような副作用の苦しみをあらかじめ避けるために、先述の安崎暁(あんざき・さとる)氏のように最初から抗がん剤投与を拒否し、自分の生存期間をあえて短くする患者も出てくることになる。
それに対し、私はすい臓がんの進行を抑えるべく積極的に抗がん剤を使用し、これまで無事に乗り切ってきたが、苦い思い出として残るのはやはり、抗がん剤のさまざまな副作用である。だるさ・倦怠(けんたい)感、しびれ、味覚障害、湿疹、脱毛、爪・皮膚の変色、むくみ、便秘など、ほとんどあらゆる副作用に身体は苦しめられた。
これらのうち脱毛とか爪・皮膚の変色などは外形上現れるもので、見てくれは悪くなるが「こんなものだ」と割り切ってしまえば、日常生活でまず問題は生じない。
とりわけ抗がん剤治療を始めた直後から、半年間ほど湿疹に悩まされた。実は抗がん剤投与の最初の副作用は、腕や脚、胸や腹に発生したこの湿疹であり、夜間眠れなくなることもあった。しかし幸いなことに、この湿疹はいつの間にか消え、その後は苦しめられることなく過ごしている。