■元気さを維持するために夫婦で歩んだ、苦難の道
いわば私は、元気ながん患者。がんが見つかって7カ月目に「中央公論」(17年3月号)で垣添忠生先生(日本対がん協会会長)と対談したときには、「これほど元気で前向きの末期すい臓がん患者を見たことがない」との言葉をいただき元気づけられた。
とはいえこの2年間、この元気さを維持するために家内に助けられ、夫婦2人でやはり苦難の道を歩んだと思う。抗がん剤の様々な副作用には悩まされたがそれを表に出すこともなく、元気に振る舞ってきた。変わったことといえば、抗がん剤の影響で頭髪がほとんど抜け落ちたため、1年後にスキンヘッドにしたぐらいである。このために帽子は手放せないが、外見上はまったく普通の人と同じである。
がんに罹患(りかん)したら、患者は家にじっとこもって静養しているほうが、治療上よいというわけではない。それよりも体を動かして体内の免疫力を高め、たんぱく質などの栄養を十分にとり、活動することが勧められている。そこで毎日の食事や運動、体重管理、外出、旅行などが、がん生活にとって重要な要素になってくる。
がんになったら「おとなしく治療に専念する」というより、むしろ「がんとの共存」を目指して毎日の生活を精いっぱい生きる努力をするべきである。このためには患者のもつ「体力と気力」こそが、重要な鍵になる。その過ごし方により自分の残された人生が、色彩豊かになるであろう。そしてがんに罹患したために、これまで経験してこなかった新しい世界が開けてくるかもしれない。
この「がん闘病記」では、元気ながん患者として過ごしている2年間のがん治療や生活を詳しく述べたいと思う。ただし1年目の闘病記は、すでに『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社、2017年刊行)で述べているので、なるべく2年目にウェートを置いて書き進める予定である。
◯石 弘光(いし・ひろみつ)
1937年生まれ。東京都出身。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など。