金正恩とトランプ氏のチキンレースは続く
金正恩とトランプ氏のチキンレースは続く
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 米国と北朝鮮の歴史上初の首脳会談が、狂騒曲と化してきた。トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長が相次いで現地入りし、世界中から注目されるシンガポール。北朝鮮側は外貨不足で滞在費用を出せないという、冗談みたいな話が出るなど、話題に事欠かない。また、現地メディアによると、歴史的会談をリポートしようと3千人以上のジャーナリストが集結。

 NHKは100人分の航空券、ホテルを予約したとも報じられた。

 大イベントにシンガポールにあるバーやレストランも便乗。記念のカクテルやハンバーガーなどが次々と発売された。トランプ大統領と金委員長のイラストが描かれたTシャツを販売する店も現れるほど。

 だが、迷惑なのは現地の人々。駐在歴3年の日本人はこうウンザリする。

「トランプ大統領が泊まるとされるシャングリラホテルのすぐ近くに住んでいるのですが、シンガポール政府が今回のために、ホテル周辺を特別行事区域にしてしまいました。通勤のための移動とかどうなるのか」

 6月10日から14日まで、一部とはいえ中心部には特別区域が設けられ、出入りを厳しく制限、管理される。日本料理店に勤務する女性もこう言う。

「期間中はなるべく外出を避けようと思ってます」

 肝心の首脳会談だが、中身のあるものとなるのか。国際ジャーナリストの春名幹男氏の見立てはこうだ。

「アメリカも北朝鮮も無理やりにでも成功させようとするはず。そして、朝鮮戦争の終結から平和協定に移行する道筋が示される可能性は十分ある。ただ、金正恩は『非核化』を約束するとは思いますが、約束だけでは不十分。本当に実行できるのか、明らかにできるかが焦点です。さらに、非核化を検証できる措置がないと意味がありません」

 また日本も難しい立場になるとする。

「安倍首相は7日の日米首脳会談後に、2002年の日朝平壌宣言に基づいて経済協力する用意があると言っているが、米国の圧力で言わされたのではないか。これまで日本は拉致問題の前進なくして日朝関係の改善はありえないとしてきたはずなのに、そこを触れていなかった。トランプ大統領は、北朝鮮の体制保証をする際の経済協力に、中国、韓国そして日本も協力すべきと発言している。今回の米朝会談後の“宣言”次第では日本で議論を呼ぶことになるでしょう」(春名氏)

 金正恩氏とトランプ氏のチキンレースは続く。(本誌・大塚淳史)

週刊朝日 2018年6月22日号