北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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女にとっての90年代(※写真はイメージ)
女にとっての90年代(※写真はイメージ)

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、「女にとっての90年代」について。

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 作家の雨宮処凛さん『「女子」という呪い』の出版イベントで、雨宮さんと田房永子さんと私でフェミについて語る機会があった。

 90年代、ゴスロリファッションで愛国する雨宮さんは衝撃的だった。リストカットや自殺未遂の体験を語り、生きにくさを抱える若者たちに言葉を届けてきた彼女だが、今回は、初めてフェミ的な視線を意識した本になったという。

 フェミニズムとは何か。雨宮さんの本を読んで、改めて考えさせられた。というのも、『「女子」という呪い』には驚くほど、死者が登場するから。10代で自殺した従姉妹、AV女優の井島ちづるさん、作家の雨宮まみさん、電通社員高橋まつりさん……。彼女たちの死を、雨宮さんは「もしかしたら私もだったかもしれない」という目線から描く。なぜなら彼女たちの死は決して、ジェンダーと無関係ではないから。いやむしろ性差別そのものの結果かもしれないのだから。

 イベント後に食事をしながら、90年代って女にとって何だったの?という話をした。雨宮さんと田房さんは90年代に青春を過ごした世代だ。私は雨宮さんより4歳年上で、あの時代、俯瞰するように彼女たちを見ていた。エンコー世代と言われ、遊ぶ金ほしさに“自由意思”でセックスを売り“性的自己決定”を行使しているかのように大人たちが不用意に持ち上げるのを、見ていた。“サブカル”の文脈で、女性への暴力を極限まで表現する“作品”がAVとして発売され、リベラル言論人やフェミが高評価するのを見ていた。

 私はただ、見ていた。でも、あの時、10代の女性たちにとっては地獄だったかもしれない。女として生きる上で、この社会に居場所などあるのだろうか。生き抜くためのリスカ、生き抜くためのAV、生き抜くための自虐や冷笑。女であることの痛みに目を閉じ、男と同じように女を食い物にする側にたつことも、女の子たちのサバイブ方法だったのかもしれない。それが自分をいつか殺すかもしれないとわかっていながら。

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