人間の体には高度に順応しようとする機能が備わっているが、個人差が非常に大きい。高度順応力が高い人でも、一気に高度を上げたり、寝不足や疲れがたまった状態で登るなど、体調や行程に無理があれば発症しやすくなる。

「富士山程度の標高では、ゆっくり登る高齢者よりもむしろ、競争しながら登ってくる若年者に急性高山病の訴えが多いように感じます」(同)

 発症を防ぐには、以下のような対策が有効だ。▽登山前は十分な休養を取る▽ゆっくり登る▽高所では必要以上に激しく体を動かさない▽やや速めの口すぼめ呼吸をする▽適量の水分補給をする(尿が透明なら大丈夫、濃い黄色なら脱水気味)▽慣れていない人は高所にとどまる時間をできるだけ短くする。

「また、登山は平地より厳しい環境で体を動かすため、心筋梗塞や脳卒中(脳血管障害)なども起こりやすい。富士山では毎年数人死者が出ています。持病がある人はとくに注意して登るようにしてください」(同)

 急性高山病は多くの登山者が経験するが、重症化すると「高地肺水腫」を引き起こすことがある。肺に水がたまり、酸素が取り込めなくなるため、進行すると呼吸困難を引き起こして命にかかわることも少なくない。

 北アルプスの玄関口の松本市にある信州大学病院には、毎年2~3人の高地肺水腫の患者が山から搬送されてくる。呼吸器・感染症内科教授の花岡正幸医師はこう話す。

「呼吸困難や咳・痰、喘鳴(ゼイゼイすること)といった典型的な症状が出てくるのは、標高2500メートル以上に到達して2~4日経ったあたりです。そのため単独峰の富士山は高地に滞在する期間が長くても1泊なので、発症する人はほとんどいません。数日かけて山々を縦走する登山者がなりやすく、山脈が連なる北アルプスや南アルプスに発症者が多いという特徴があります」

 関東地方在住の高校1年生、山本陽平さん(仮名・15歳)は14年7月、登山部の夏合宿に参加した。4日間かけて燕岳(標高2763メートル)から常念岳(同2857メートル)を縦走し、上高地へ向かう標準的なルートだが、山本さんにとっては初めての本格的な登山だ。

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