「多くの人に共通する症状は、頭痛です。酸素不足になった脳は、流れ込む血液を増やして酸素を取り込もうとしてむくんでくる。その結果、頭蓋骨の内側の圧力が高くなって、脳の表面を走る痛みの神経や吐き気の中枢が刺激され、頭痛などの症状が出ると考えられています。同じように脳がむくんだ状態になる、脳腫瘍の初期症状や、二日酔いの症状と似ています」

 睡眠中は起きているときに比べて酸素を取り込む能力が低下するため、翌朝になって突然症状が出てきたり、浅井さんのように悪化したりする場合も多い。

■口すぼめ呼吸で血中の酸素量を改善
 
 平地で97%程度ある動脈血酸素飽和度は、富士山山頂の標高では75~80%まで低下するのが普通だが、浅井さんは70%まで落ちこんでいた。

 齋藤医師は浅井さんに「口すぼめ呼吸」をするように指示。息を大きく吸い、口笛を吹くように口をすぼめてしっかり吐き出すと、肺がすみずみまで広がり、効率的に酸素を取り込むことができる。浅井さんはやや速めの口すぼめ呼吸を5分ほど繰り返しただけで、動脈血酸素飽和度が90%まで上昇した。

 さらに内服した鎮痛薬と吐き気止めも功を奏し、歩けるようになったため「日の出を見終えたら速やかに下山するように」という齋藤医師の指示に従った。下るにつれて症状は消え、5合目の登山口に到着するころにはすっかり元気を取り戻していたという。

「症状が出た場合、鎮痛薬や吐き気止めは一時的に症状を抑えるだけなので、下山してより気圧の高い環境に移動することが最も効果が高い治療法です。ただし急ぎすぎると、酸素消費量が増加して症状が悪化するので、ゆっくり下るようにしてください」(齋藤医師)

 急性高山病を発症するのは標高2500メートルを超えるあたりから。標高が上がるにつれ、発症者数は増えていく。

「標高第2位の北岳(3193メートル)での発症はそれほど多くありませんが、さらに600メートル高い富士山では登山者の半数以上が何らかの急性高山病の症状を感じると言われています。体力の有無に関係なく発症します」 

 と齋藤医師は言う。

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