ディスク3で印象深いのは、“つかの間、彼女はツバメになった”と身を投げて命を絶った女性を描いた「ツバメのように」と、フランスのレジスタンス運動の時代の抑圧の中で輝く男女の愛と命を歌った「シャンソン」だ。

 もう1曲、『YUMING SPECTACLE SHANGRILA III A DREAM OF A DOLPHIN』で、綱渡りのパフォーマンスをバックに歌われ、強烈な印象を残した「朝陽の中で微笑んで」も見逃せない。本作の初回限定盤にはユーミンのインタビューを挿入した映像作品が収録されているが、そこで同曲の模様を見ることができる。

 そのインタビューでユーミンが語るには「ただわけもなく」が本作を作るモチベーションのひとつになったという。青空に出会って、不意によみがえる遠い夏、手をつないで駆け上った堤防での散歩、“きみ”の思い出。

 それと並ぶのがアルバムを締め括る「July」。ユーミンがよくテーマにする、季節が移ろう情景と心に潜む愛を描いた。この曲についてユーミンが“インナートリップ”“サイケデリック”と記しているのが印象深い。

 出会い、別離、追憶、郷愁、センチメント、せつなさ、はかなさ、物悲しさ。耳に届くメロディーの親しみ、温度や湿度、空気感などを伴う情景や心情表現、抽象的なものを具象化した普遍的な歌詞。むろんプロデューサーであり、独特のサウンドを生みだす夫・松任谷正隆の存在も見逃せない。本作に収録されたユーミンならではの個性を発揮した曲の数々から、新たな発見があるに違いない。ユーミンだからこそ成しえた見事なベスト・アルバムである。

 ユーミンは“これからも、歌をつくってゆく。私の中の“ユーミン”が「つくろう」とささやく限り”と、備忘録を締め括っている。(音楽評論家・小倉エージ)

●『ユーミンからの、恋のうた。』初回限定盤A=3CD+Blu-ray+ブックレット(ユニバーサル UPCH―29291)
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●通常盤=3CD+ブックレット(同 UPCH―20479/81)

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