テーマごとに紹介しよう。
ディスク1のうち、先にも触れた「雨の街を」からは少女のうつろいがうかがえる。「返事はいらない」が不発に終わってのち、アルバム『ひこうき雲』とともに再スタート・シングルとなった「きっと言える」などは、ユーミンの瑞々しい感性が評価された曲である。
それら“純愛”をテーマにした曲のなかでも、異色なのが「セシルの週末」だ。忙しいパパと派手好きなママが別の部屋で暮らす主人公の、下着は“黒”で、煙草は“14”から。欲しいものがあればなんだってくすねてしまうと語る。そんな彼女が初めて本気で怒られた男に求婚され、心を入れ替える決心をする。
「海に来て」は、頑なで強がりで孤独だった主人公が、愛の告白を受け、不安にかられて海辺にやってくる。“遅すぎた春”という歌詞は、歌の背景の季節だけでなく主人公の年齢を物語る。引き潮に素足が埋もれ、のめりそうな影を風が抱きとめる。歌詞にしてわずか3行、耳元をすっと通り過ぎていく歌詞だが、その3行に遅い春の砂浜の情景、海辺に佇み喜びと不安を抱える主人公の心情が見事に描き出されている。
ディスク2の冒頭からの4曲は別れの歌。「ふってあげる」は、本心を心の奥にしまったままに別れを告げ、「思い出に間にあいたくて」では、“最終電車に乗れたのに、乗らなかった、会えたのに、会わなかった”主人公が、いらなくなった合鍵をポストに落とし、2人の思い出をかみしめながら決別を決意する。
「もう愛は始まらない」では“見つめないで、さわらないで、だまされない”と、決別の言葉は強烈だ。
「幸せはあなたへの復讐」はユーミンが得意とする“リベンジ・ソング”のひとつ。“昔のように気やすくされても 私にはもう恋人がいるの”と主人公はきっぱりと言い放つ。
強がりを装いながら、胸の痛みは隠せない「NIGHT WALKER」や、突然の雨に思い出がよみがえり、気丈な心が崩れおちる「Nobody Else」での心情描写、都会を背景に田舎から来た女の子の様を描いた「街角のペシミスト」などもユーミンならでは。