全国で道徳の研究授業や公開授業が行われてきたが……(c)朝日新聞社
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 4月から小学校で道徳が教科化された。これまで「教科外の活動」として成績評価の対象外だったが、2015年に文部科学省は学校教育法の施行規則を改正し、道徳を「特別の教科」に格上げした。だが、道徳教育で「子どもの個性や多様な意見を潰しかねない」と現場は混乱している。

 道徳は4月から正式な教科として成績が付けられるが、5段階などの数値ではなく記述式で評価される。

 だが、子どもの「内心」を評価することに反発や戸惑いを感じる教員も少なくない。実は横浜市では全国に先駆け、昨年度から市立小中学校で道徳の教科化を実施してきた。横浜市内の小学校教員が困惑しながら語る。

「私たち教員は日ごろの係や委員会活動、行事などを通じて、通知表の総合所見欄で子どもたちを評価してきました。そのうえ、子どもの『道徳心』をどう評価したらいいのか、相当悩みました。小中学校の多くの教員が多忙で連日、過密勤務状態です。いきおい、評価の文例などマニュアル化を望んでいる先生方も増えています。子どもの内心に踏み込むばかりか、教員たちの側も思考停止するように仕向けられているように感じます」

 道徳で定番となっている「星野君の二塁打」という小学6年の教材も、教員たちの悩みの種だ。

 バッターボックスに立った星野君に、監督が出したのはバントのサイン。しかし、打てそうな予感がして反射的にバットを振り、打球は伸びて二塁打となる。この一打がチームを勝利に導き、選手権大会出場を決めた。だが翌日、監督は選手を集めて重々しい口調で語り始める。チームの作戦として決めたことは絶対に守ってほしいという監督と選手間の約束を持ち出し、みんなの前で星野君の行動を咎める。「いくら結果がよかったからといって、約束を破ったことには変わりはないんだ」「ぎせいの精神の分からない人間は、社会へ出たって、社会をよくすることなんか、とてもできないんだよ」などと語り、星野君の大会への出場禁止を告げるシーンが展開する。

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