
東京都台東区浅草3-22-12/営業・月~金13:00~17:00、土祝13:00~16:00/休日・日(撮影/写真部・大野洋介)
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豆と寒天の上から黒蜜をかけるだけの「豆かん」(470円)。いたってシンプルだが、非常に手が込んでいる。北海道産の赤えんどう豆をじっくり丁寧に、5時間かけて煮込んで作る。煮込みすぎてつぶれない程度に、いかにやわらかく仕上げるかが熟練の技。みつ豆470円、あんみつ570円。持ち帰り用豆かん470円も人気。税込み(撮影/写真部・大野洋介)
著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は杏林大学外国語学部教授・金田一秀穂さんの「梅むら」の「豆かんてん」だ。
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浅草には名だたる老舗が軒を並べていますが、浅草で働いている職人さんや、この地域にとても詳しい人に、「どこがおいしい?」と聞くと、必ず挙がるのが、「梅むら」の名前です。
表通りに並ぶ派手派手しい見かけの店たちとは趣が異なり、浅草寺の裏の路地を入ったところにひっそりと建っている。何の飾りもなく、狭い間口の店構えで、あんみつやみつ豆をさしおいて、豆かんを売り物の筆頭に置いています。
黒く艶々した小ぶりの豆を、寒天の上に山のようにかぶせて、黒蜜をかけていただきます。匙ですくうごとに味の変化があって、蜜が濃い時、寒天の多い時、豆がたくさんの時、決して飽きさせず、あっという間になくなってしまいます。ずっとなくならず、永遠に食べ続けたいという気持ちになってしまう。そして、このあっさりとした後味はなんなのだろうと不思議な思いになるのです。
ぶっきらぼうなほどの飾り気のなさに潜む深い味わいに、江戸っ子の気概を感じさせます。
(金田一秀穂)
「梅むら」東京都台東区浅草3-22-12/営業時間:月~金13:00~17:00、土祝13:00~16:00/定休日:日
※週刊朝日 2018年4月20日号
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