作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、「土俵の女人禁制問題」について。
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相撲のテレビ中継がはじまったのは、1953年。テレビ放送をきっかけに、土俵上の屋根を支える4本の柱が取り除かれ、屋根は天井から吊されるようになった。こうすることによって柱による死角もなくなり、“見やすい”相撲が生まれたのだ。それでも当時は柱撤去には激しい議論が起きたという。そりゃそうだろう。神道との関わりが深い相撲。土俵にも屋根にも柱にも、それぞれ深い意味と世界観があり、天を支える柱には方位が定められ、神が祭られている。それをテレビのため……という理由で取り払うなんて!という伝統側の気持ちはよーくわかる。
ちなみに、相撲界が興行のために、伝統を切り崩してきたのは、柱だけじゃない。例えば土俵上の真ん中にある仕切り線が引かれたのは、1928年のラジオ中継がきっかけだった。仕切りに時間がかかり、放送時間に間に合わない可能性があるために土俵上に白い線を引いたのだ。“神聖な”砂の上にペンキ(以前はセメントや石灰)を塗るなんて、ありえなーい!と私などは思うけれど、資本主義とはそのようなもの。そしてもしかしたら伝統とは、そのようなもの。国内力士が人材不足となれば、外国でスカウトし、日本人に代わって相撲を盛り上げてもらうなど、グローバルな視野で現実に対応し、臨機応変に展開してきたからこそ角界は持続してきたのだとも言えよう。で、そんな角界が伝統の皮をかぶり、いつまでも固執するのが、女の排除である。
先日、京都府舞鶴市での春巡業で、舞鶴市長が土俵上での挨拶中に意識を失った。倒れた市長を取り囲みただ呆然とする男性スタッフたちに代わり、観客席の中から女性数人がかけあがって市長の心臓マッサージをはじめた。その時、場内アナウンスで若い男性行司が「女性の方は土俵から降りてください」と繰り返し放送したことが、大きく話題になっている。