政府の「人生100年時代構想会議」(c)朝日新聞社
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繰り下げで年金はどれだけ増えるか?(週刊朝日 2018年4月13日号より)
繰り下げで年金はどれだけ増えるか?(週刊朝日 2018年4月13日号より)

 公的年金を受け取り始める年齢を、「70歳超」でも選べるように検討していくことが政府レベルで正式に決まった。「年金繰り下げ」の拡大だ。遅くもらい始める人には「増額率アップ」もありうるという。どれぐらいアップしそうなのか、果たして使える制度なのか。

【図表】繰り下げで年金はどれだけ増える?シミュレーションはこちら

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 社会保険労務士でファイナンシャル・プランナー(FP)の井戸美枝さんは、老後マネーの相談を受けた場合、女性には「年金繰り下げ」の検討を薦めている。

「特に専業主婦の方ですね。昔は『寿退社』が当たり前で、専業主婦は独身時代に数年間、働いただけという人がほとんどです。すると、もらえる年金は満額でも月6万5千円程度の老齢基礎年金に、老齢厚生年金が『ちょこっと』という形になります」

 夫が平均的な収入のサラリーマンならば、それなりの老齢厚生年金が受給できる。このため夫婦2人暮らしの時はいいが、夫に先立たれるとお金に困るケースが少なくないという。

遺族厚生年金はもらえますが、それを足しても月十数万円、中には10万円程度にしかならない人もいます。そんなことが予想される時に、自分の年金を増やせるのが『繰り下げ』なんです」

 確かに、あと何年生きられるかを示す「平均余命」を見ても、65歳だと男性は約19年だが、女性は約24年と5年も長い。井戸さんが薦める「繰り下げ」は、高齢の女性が一人になった時の家計防衛の手段なのだ。

 一方、同じく社労士でFPの澤木明さん(67)は今、自身の老齢年金の「繰り下げ」を実行中だ。50歳代の初めに大手カメラ会社を辞めて独立、社労士事務所を経営しながら、企業のライフプラン研修の講師などを務めている。

「年金をもらわなくても、暮らしていけるだけの収入があるからできるのですが、今の制度で許されている70歳までの5年間、フルで繰り下げを利用しようと思っています。妻も同様に繰り下げをしています」

「人生100年時代」を迎え、老後マネーに改めて関心が集まっている。そんな中、政府は高齢社会対策の新方針「高齢社会対策大綱」を打ち出し、その中で年金を受け取り始める年齢を70歳を超えても選べるように検討していくことを盛り込んだ。つまりは「年金繰り下げ」の拡大だ。果たして、井戸さんや澤木さんが言うように、「繰り下げ」は使える制度なのか。

 まずは、現行制度をおさらいしておこう。

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