労働環境でよく比較される、日本企業と外資系企業。外資の労働環境は日本に比べて本当に恵まれているのだろうか? 邦銀に11年間、米銀に15年間勤め、“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏が実情を明かす。
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外資の労働環境は恵まれていると思う方もいるかもしれないが、生き抜く厳しさがあることも事実。私は正規社員だったが、「紙切れ一枚で、だれでも翌日からクビに」という点では、社員全員が非正規だった。
終身雇用制ではなく、結果を出さないと会社にいづらくなる一方で、業績を上げると報酬を多く期待できる。午後5時を過ぎての仕事は残業代稼ぎではなく、「成功すれば食える」というモチベーションからだ。
まさに実力主義だった。JPモルガンの会長だったウェザストン氏は中学卒の英国人で、メッセンジャーボーイとしてロンドン支店に入社した。仕事でも生き方でも私が師と仰ぐスイス人のボス、マーカス・マイヤーは小学校出で、パリオフィスに入社。5人の社長候補の1人だったが、突然退職した。リタイア後の人生も私の憧れで、人生観が異次元だ。
マーカス氏もウェザストン氏もとんでもなく頭がよく、会った瞬間、かなわないと思った。学歴社会の日本では埋もれるこのような天才と、大卒だからと言って勝負をせずにすむ日本人の働き方は大違いだった。
社員同士のつきあいも、日米間でかなり違った。
今は邦銀でも、退社後に飲みに行ったり、麻雀をしたりすることが少なくなったと聞くが、私の邦銀勤めの時代、午後5時以降のつきあいがないと奇人変人扱いされた。協調性がないと評価されれば、出世に響いたであろう。上司が部下を飲みに連れていかないと、「人事管理能力がない」と評価を受けただろう。
ところが、JPモルガンに移ったとたん、カルチャーショックを受けた。外国人はさっさと帰宅し、「つきあいのためのつきあい」は皆無。しかし、「ドライな世界」かというと必ずしもそうではなく、ホームパーティーなどに呼び合ったり、世界各地での会議に伴侶を同伴して会議後に親睦を図ったりしていた。