「Rambling Boat」は本木雅弘への提供曲(97年)。高野の弁では“カントリーとミニマル・ミュージックが融合したアコースティックなサウンド”とのことだが、ポール・サイモンが手がけるフォーキーな曲に通じる。歌詞の幻想的な情景描写が、恋人同士の濃密な関係を浮かび上がらせる。

「上海的旋律【Shanghai Melody】」は野宮真貴への提供曲(2002年)で、今回は野宮がゲスト参加し、デュエットを聞かせる。昭和歌謡的なメロディーを持つノスタルジックでドリーミーな曲だ。カントリー・テイストのピアノ、スティール・ギターの“泣き”の演奏が味わい深い。作詞者は蓮水香となっているが、高野の変名で、女性目線で作詞したことからそうしたという。

 書き下ろしの新曲「とおくはなれて」は3連のスロー・バラードで、サザン・ソウル的なテイストも織り込まれた、物悲しさが漂う叙情味のある曲だ。

 歌詞は京都精華大学で教鞭をとる高野が授業で出した“五音節か七音節だけを使って作詞する”課題への模範解答として書いたという。“君の街”から遠く離れて、もはや元には戻れない“君”との思い出をかみしめる追憶の歌で、“どこの誰より近いのに いつも言葉は遠回り”という2人の間のもどかしい感情を表現した歌詞が光る。

 もう一つの書き下ろし「みじかい歌」もスローな曲で、フォーキーな叙情味を交えたメロディーや演奏展開はジェイムス・テイラーの曲に通じるものがある。平凡に過ごす毎日の10年後の今を思い浮かべても“何もわからない 誰にも いつも口をついて 歌うだけなんだ”と歌われる。

 カヴァーしたのはボブ・ディランの「時代は変わる」。メロディーやリズムをかみ砕いて、高石ともやの訳詞を参考に、自ら訳詞を手がけ、3番にはアメリカの大統領選の結果を反映させた歌詞を書き加え、1年以上、ライヴで歌い続け、録音に至ったという。Dr.kyOnのマンドリンをバックにしたギターの弾き語りによる高野の淡々とした歌には説得力がある。新曲とともに、本作でのハイライトと言える。

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