芝居の上での不安や疑問も、健さんの一言で乗り越えられたというか、自信が持てたという感じです。これから先も演じるということで、健さんの言葉とか雰囲気をいただいて、仕事をしていくんだろうなと思っています。
ただ、最近、健さんに対する気持ちが少し変わってきていることに気づきました。健さんみたいな人にはなれないな、って思えてきたんです。「あなたへ」の撮影のころは、高倉健さんが自分にとっての理想の役者になっていました。
生涯現役80歳でいらして、デビュー時から50、60、70代まで、ずっとトップスターとして活躍されてきた。アスリートは最も力を発揮できる時期って決まっているじゃないですか。
役者もそうです。でも健さんを見て、すごいと思いました。そして自分が目指すべきところだ、と考えていました。
でも今は、目標にすること自体がおこがましいと思うようになりました。「なに高倉健目指しているんだよ、馬鹿じゃないの?」っていうか(笑)。「お前が健さんと同じレベルで考えるなよ」っていうか。
健さんはすごすぎて、僕が目指すところではなかったことに今ごろ気づかされたんです。健さんを目指すんじゃなく、もっと自分らしくやろうぜ、って。しかし、それも健さんに教えてもらったことなんですよ。
ただ、こうも言えます。6年前に健さんと仕事をして、目指すところは高倉健さんだと思った自分があってこそ、現在の自分があるんだぞ、と。最近の僕はそんな気持ちなんですよ。
今は「健さんを目指すとか言ってるんじゃなく、もっと身近な目の前のものをちゃんとやれよ」という気持ちになっています。6年前とは変わってきているんです。単純に健さんみたいな俳優になりたいというものを超えて、自分というものができている。もっと自分らしく。
じゃあ、それは何なんだよって。芝居をする時、自分自身に問いかけるようになりました。演技をしている時に、健さんのこと、つまり健さんと自分との距離感とかを測るようになっています。
人の心に何かが残るような、何かが伝わるような作品をつくっていければいいなと思います。期待してくれているファンの方もいらっしゃるので、待っててもらいたいなと思います。
自分の新しい地図を描きたいという思いは、今を生きる誰もが抱いている普遍的な気持ちなのではないでしょうか。そこにうまくはまるような仕事をしていきたいですね。
(聞き手/朝日新聞編集委員・石飛徳樹)
※週刊朝日 2018年3月2日号