『もういちど あなたへ 追憶 高倉健』(朝日新聞出版)でインタビューに応えた俳優・草なぎ剛さんが、映画「あなたへ」に出演するきっかけは高倉さんからの一通の手紙だった。草なぎさんは、その手紙の返事を書くように、本誌に語ってくれました。題して「拝復 高倉健様」。
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昨年、「新しい地図」というプロジェクトを立ち上げました。歌も歌いたいし、いろいろなことをやっていきたい。でもやっぱり、高倉健さんと縁があったことで、役者が僕の中では特別な分野というか、そういう気持ちになっています。健さんの影響は本当に大きいんです。
僕は当時、自分のことを役者だとは思っていませんでした。ですが、健さんと仕事をしてから、演技というものに興味が出てきました。「役者になりたい」と思いました。
「あなたへ」で、田宮という役を演じ、自分としても開花したなというか、心が解放された、と感じています。そういうものが出てくるとは思わなかったんだけど、なんだかウキウキする感じなんです。
ラストシーンで、健さんがずうっと歩いていく姿を見ながら、健さんが導いてくれたんだなと考えていました。僕自身が知らなかった部分を、健さんは直観して、引き出してくれたんだと。そして、そういうことを感じたのはたぶん僕だけじゃないと思うんです。
健さんの存在感がみんなを引っ張っていくというか、健さんの大きな雰囲気に包まれながらの撮影でした。そうですねえ、僕は緊張しながらも、なんだか映画の世界に誘ってもらえているような、健さんと仕事をしている時はそんな感じでしたね。
最初にお目にかかったのが富山のホテルでした。僕は撮影前日の夜に富山に入りました。食事をする予定でしたが、僕の到着が少し遅れてしまって。すると健さんがステーキを差し入れてくださっていました。「周りにごはんを食べるところがないから」って。
翌朝、健さんのお部屋で朝食を一緒に食べました。「ようやく会えたね」って握手をしてくださって。その時の健さんの手のぬくもりとか、手の大きさとか、握る強さとか、一生忘れないでしょうね。
ちょっと、ハグみたいな感じもしてもらったんですが、「ああ、なんだか大きい山のような人だ」って思いましたよ。「でかいっ」って。「やばいぞ、この人は」って。