著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は酒場詩人・吉田類さんの「カブト」の「一通り」だ。
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いままで数えきれないほど居酒屋を訪れましたが、僕なりのいい店の見分け方があります。外から中の様子を見ると、大衆的な雰囲気でお客さんがみんなくつろいでいる。そして活気が外まで伝わってくる。こんな居酒屋に、はずれはありません。
新宿西口「思い出横丁」のど真ん中にある「カブト」もそんな店。最初に行ったのは、初代のご主人がまだ焼き場に立っていたずいぶん前のこと。戦後の闇市の風情が残る横丁の中でも、ひときわ活気があって、迷わずのれんをくぐりました。
いつも決まって頼むのが「一通り」。うなぎの頭から尾っぽまで5種類の部位が食べ尽くせるちょっと贅沢な串コースです。カウンターのすぐ目の前で焼かれるうなぎは、炭火焼きならではの香ばしい苦みがたまらず、焼酎がすすみます。
初めて行くカウンターの店は緊張気味になりがちですが、最初に目の前のご主人や隣のお客さんに軽く会釈する。それだけですっと店になじんで、お酒がさらにおいしくなりますよ。
(取材・文/今中るみこ)
「カブト」東京都新宿区西新宿1‐2‐11/営業時間:13:00~20:00/定休日:日祝*予約不可
※週刊朝日 2018年2月23日号