「まじめな人ほど、論争を挑まれると相手を論破しようとする。それはやめたほうがいい。何の解決にもならない。それどころか、言い負かされた相手は恨みを倍増させる。海外では話がかみ合わないと思ったら『ああ、こんな時間だ。もう帰らなきゃ』と時計を見てグッドバイ。あるいは『キミの意見は正しいと思うよ。コングラチュレーション』と笑顔で立ち去る」
これぞスルー力。背景には多様な文化の寄り合い所帯という認識が土台にある。
「出身国も違えば、信じる宗教も異なる。互いを理解できないのが当たり前だと思っている。“違い”を前提にすると、ムダな議論をしなくなります。例外は、組織の進路を決める重要会議。ここでは激論を交わします。でも、一文の得にもならない論争はしません」
しかし、どんなにスルーしても絡んでくるアホはどうしたらいいのか。「幽体離脱」を試みよという。
「なぜ、そうした行動を取るのか。心を落ち着けて、相手の気持ちを読む。大半は理不尽な言いがかりですが、客観的な視点に立つことでカッとしていた頭がクールダウンされます。いちばんやってはいけないのは、感情のまま反応すること。火に油を注ぐだけです」
嫌がらせに対する反撃で田村さんが勧めるのは、怒りを発散させる返信メールを書くこと。しかし、送らずに保存する。
「一晩寝たら、怒りが静まっていることが多い。気が晴れるということなら自作の『デスノート』に書いて保管するというのもいいでしょう。大事なのは、怒りのエネルギーをコントロールすることです」
それでもデマを流布されるなど対処を求められる事態には、まず情報収集を行う。関係者に「正確な情報」を伝え、相手を監督する立場にいる人物にも報告するのが有効だという。
田村さんが実例にあげたのは、インターナショナルスクールでの娘へのイジメだ。娘から話を聞いた田村さんは、その夜は一睡もできなかったという。調べてみると父母会の運営に関して、田村さんに対する保護者の感情のもつれがあったようだ。結果「情報の共有化」を選び、出来事を学校に報告するにとどめた。