U2のニュー・アルバム『ソングス・オブ・エクスペリエンス』。2014年、世界中のiTunes Storeの利用者に無料配信され、後にCD化された『ソングス・オブ・イノセンス』と対になる作品として発表を予告されながら、見送られていたアルバムである。
【U2のニュー・アルバム『ソングス・オブ・エクスペリエンス』ジャケット写真はこちら】
U2は1978年、ボノ、ジ・エッジ、アダム・クレイトン、ラリー・マレン・ジュニアがアイルランド・ダブリンで結成。デビュー以来、不変のメンバーでロック・シーンの第一線で活躍し続けている。
本作の発表遅延の要因は複数ある。まず14年11月にボノがニューヨークで自転車事故を起こし、腕などに大けがをした。その後のツアーの合間にレコーディングを継続したものの、イギリスのEUからの離脱決定、ドナルド・トランプ米大統領の誕生、ヨーロッパ各国での極右勢力の台頭といった社会情勢をにらみ、もともと私的な内容だった歌詞を書き直す作業も加わった。
一貫して社会問題をテーマとした作品を発表してきた彼らからすれば、当然の処置だったといえよう。
さて、『ソングス・オブ・イノセンス』と『ソングス・オブ・エクスペリエンス』のそれぞれのタイトルは、イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの詩集“Songs of Innocence and Experience”(『無垢と経験の歌』)にインスパイアされたものだという。
先に発表された『イノセンス』は、U2結成当時に遡り、バンド活動にあたって刺激や影響を受けてきたラモーンズやザ・クラッシュに捧げた曲、バンドを取り囲む人間関係、友情、恋人、家族について解き明かした曲などを収録。“無垢”だった時代を描いた自伝的な作品だった。
今回の『エクスペリエンス』は前作と対照的に、現在のU2を表現している。『ヨシュア・トゥリー』(87年)以後のU2らしいギター・ロックを主体に、モータウン・スタイルのソウル/ファンク的な要素、最近になって影響を受けた音楽展開などを反映させたコンテンポラリーな内容だ。