ゲストとして、ラッパーとして評価の高いケンドリック・ラマーをはじめ、レディー・ガガやジュリアン・レノン、ガールズ・ロック・バンドのハイムがコーラスで参加している。

 音楽展開もさることながら、注目されるのはボノが手がけた歌詞である。ボノ自身がそれぞれの曲を書いた背景などを記した文章を公表している。

 その中でとくに目に留まったのは、本作の曲を書き始める前、アイルランドの詩人、小説家のブレンダン・ケネリーが立ち向かっていた課題にボノも取り組んだというエピソードだ。それは“文芸の深奥を極めたいなら”という挑発でもあり、“自分が死んだかのように書く”“自我を超越しようという挑戦”でもあった。曲が“ラジオでかかったり、様々なところから流れるころには、自分はこの世にはいないかもしれないという感覚を抱いていた”とも触れている。

 ボノはそうした思索の結果、自分が亡くなった後を想定したラヴ・レターとして詞を書くことにした。本作の収録曲は、家族、友人、ファン、自分自身にあてた手紙の形をとったという。

 ボノが“パンクなモータウン”と語る「ベスト・シング」、ジ・エッジ独特のギター・リフやシンセサイザーなどによる叙情的な「ランドレディ」は、ボノの妻アリに向けてのものだ。「ザ・ショウマン(リトル・モア・ベター)」や「ザ・リトル・シングス・ザット・ギヴ・ユー・アウェイ」などからはボノ自身のことが思い浮かぶ。

「ゲット・アウト・オブ・ユア・オウン・ウェイ」は、“自分で自分の行く手を阻むな、邪魔をするな”と歌うメッセージ・ソングで、歌の最後でケンドリック・ラマーが傲慢な者、スーパースターや金持ちを揶揄する。

 ケンドリックが弱者をいじめて嘘をつく者を皮肉る「アメリカン・ソウル」では、トランプ大統領の不法移民、難民、イスラム系の人々への強硬な政策への批判と、寛容な国であったはずのアメリカのあるべき姿への願いが歌われる。

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