
デニッシュ・ビューティが、大きくステップアップ
Nothing In Between / Sidsel Storm(Calibrated)
デンマークを代表する若手女性ヴォーカリストだ。アルバム・カヴァーからはその表情をうかがうことはできないが、内ジャケットとブックレットに写るシゼルは、デニッシュ・ビューティと呼ぶにふさわしい美貌の持ち主である。
この新作、実はジャケットに彼女のメッセージが集約されているように思う。セルフ・タイトルの2008年デビュー作は、帽子をかぶった肩から上のポートレイト。「エンジェル・アイズ」「マイ・フェイヴァリット・シングス」等のスタンダードと、シゼル作曲のオリジナルの構成で、ヤコブ・カールソン(p)らが好演した内容だ。これがたちまち現地で評価され、2009年度《デンマーク音楽賞》の最優秀国内ジャズ・ヴォーカル作品を受賞。一躍注目株に躍り出た。同じデンマークのシーネ・エイがキャリア初期にレコード・ビジネスで苦難を経験しながら、現在の地位を築いたことを考えると、シゼルは最初から幸運に恵まれていたと言えるだろう。
2010年の第2弾『スウェディッシュ・ララバイ』は前作同様、肩から上のシゼルをとらえた構図だが、肌を露出した点で一歩踏み込んだ印象を抱いた。内容はピアニストが今やスウェーデンの重鎮と呼ぶべきラーシュ・ヤンソンに交代し、シゼル作詞の2曲に自作曲を提供。かつての教え子だったシーネから乞われてラーシュが彼女のアルバムに参加した実績を踏まえると、ここでも再びシゼルのシンデレラぶりが印象付けられる。アルバム・カヴァーの魅力が後押しをしたこともあって、同作が日本におけるシゼルの人気を確立した記念碑となった。
2年ぶりの第3弾となるこの新作は、過去2作とはがらりとコンセプトを変えたアルバム・カヴァーだ。後姿を写した初めての全身像は、一気にアダルトな雰囲気が増しており、これまでのフォトジェニックな要素ではなく、実力で勝負しようとの決意さえ伝わってくる。それはアルバム作りにも反映されている。前作のいくつかがシゼルの作詞でプロデューサー兼任のペーター・オットーの作曲だったのに対し、本作は両者の共同作業によって作詞・作曲を行った。ソングライターとしての成長の跡がうかがえるのだ。
気になる今回のピアニストは、国内制作盤によって日本でも認知度が高まっているマグナス・ヨルト。デンマークの新世代トップを起用したことにも、シゼルの前進する姿勢がうかがえる。総じて言えるのはヴォーカルとバンド・サウンドの絡みが、欧州現代ジャズの愛好者の共感を生むに違いないこと。大きくステップアップした自信作だ。
【収録曲一覧】
1. Nothing In Between
2. A Little Bit Too Late
3. Flown Away
4. I’m Beginning To See The Light
5. This Moment
6. Copenhagen
7. ‘S Wonderful
8. Early Kiss
9. Left Behind
10. Caravan
シゼル・ストーム:Sidsel Storm(vo)(allmusic.comへリンクします)
マグナス・ヨルト:Magnus Hjorth(p)
スノーレ・キルク:Snorre Kirk(ds,per)
2012年スウェーデン、イェーテボリ録音