アルコール依存症の自助グループの案内書
アルコール依存症の自助グループの案内書
飲酒習慣スクリーニングテスト(AUDIT)(週刊朝日 2017年12月22日号より)
飲酒習慣スクリーニングテスト(AUDIT)(週刊朝日 2017年12月22日号より)

 日本を見渡せば、酒はコンビニなどで24時間いつでも購入できる。スーパーやディスカウントストアに行けば、ジュースより安い100円以下で売られている酎ハイ缶もある。繁華街、電車内などでは酔っ払った中高年が溢れているが、依存症に陥るケースが急増している。

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 救急外来の紹介を経て、ようやくアルコール専門病院に入院してくるのは重症化した患者ばかりだ。厚労省の調査では、日本には100万人を超えるアルコール依存症患者がいるというのに医療機関で治療を受けているのは、わずか4万人だけというお寒いデータもある。垣渕洋一医師がセンター長を務める成増厚生病院(東京都板橋区)の東京アルコール医療総合センター(以下、東京アルコールセンター)には、年間約1500件の電話相談が全国から寄せられる。そのうち適応患者になりそうなのが約500人。直接来院しての無料相談に応じている。入院に漕ぎつけるのは、約半数の260人前後だ。垣渕医師が言う。

「電話をかけてくる時点で家族は相当に追い詰められています。無料相談の面接時点で、私はアルコール依存症に該当しない人に会った例がありません」

 だが、酒が飲めなくなるということは、患者本人にとって身体的にも精神的にも多大な喪失感に見舞われることになる。だから、本人はアルコール依存症であることを認めようとしない。

「ですから、依存症であるという医師の診断をとりあえず受け入れた人が入院しますが、ほとんどの患者さんは本音では自分は依存症ではないと思っている。しかし、本人が病気であることを実感するのを待っていたら、本当に死んでしまいます。本人が納得していないうちに入院・治療するのが、断酒への成功の秘訣なのです」(垣渕医師)

 アルコール依存症は本人ばかりでなく、家族も巻き込んで苦しみにさらされることになる。

 断酒会に参加していた60代の夫婦は現在、夫が医療機関に入院中の身だ。数年前から過度の飲酒が原因で何回か救急搬送された。今年になって肝臓がんが見つかり、手術して肝臓の3分の1を切除した。妻が困惑した表情を浮かべながら語る。

「何と言っていいのか……、理解できません。手術後も夫はお酒を飲むと何も食べないので、55キロあった体重が39キロまで減りました。入院を促しても嫌だという。『もう別れるしかないね』と離婚を切り出すと、いっそう飲んでしまいました。絶望的な気持ちにさせられます。夫は暴力は振るいませんが、お酒がなくなると『買って』と何度もせがんでくるのです」

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