放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「M-1グランプリ」について。
* * *
世の中には芸能界に入るためのオーディションはたくさんある。だが、そのオーディションで受かったり、優勝しても、即座にブレークすることはない。今のテレビで一夜にして、人の人生を大きく変えるのは、M‐1ぐらいだろう。
M‐1グランプリ2017で、とろサーモンが優勝した。結成15年。ラストイヤーとなる出場での優勝。決勝に残ったのはミキに和牛。このキラキラして勢いに乗ってる2組と、泥水をすすりまくったとろサーモン。
僕がお酒を飲みに行く芸人さんの中には、40歳過ぎて売れてない芸人さんは結構いる。みんなおもしろいが売れてない。
M‐1はコンビを組んでから15年以内のコンビに出場権があるが、芸歴15年未満の芸人さんはM‐1という目標がある。だが、僕の周りにいる芸人さんはそこに出るという目標を持てないのだ。
数年前、M‐1に出たあるコンビがいた。漫才の腕を磨き続けて、いつか絶対M‐1の決勝に出て売れてやると意気込んだ。気合を入れて臨んだ準決勝。そこで勝ち抜けば、テレビ放送のある決勝に出られる。だが、そのコンビのボケが一瞬だけ噛んでしまった。M‐1の会場にはスポーツ観戦的な緊張感もある。一瞬の噛みで、お客も「噛んだ」って思ってしまう。
そのたった一瞬の噛みでペースを壊した彼らは、その年、決勝には出られなかった。その翌年、彼らは見事、決勝に出た。だが、決勝に出た中で、最下位という結果だった。M‐1の決勝に出たことで、漫才の営業は増えただろう。
だけど、テレビの仕事が増えることはなかった。そして、芸歴も20年に近づき、彼らは日々漫才のネタを作り続け、腕を磨いている。
もうM‐1に出られない。そんな彼らが、今後、どうやってブレークのきっかけをつかんでいくのかはわからないが。「いいネタを作れば裏切らない」と信じ、作っている。