しかし、今年夏、野尻氏の研究所が、全国の50~60歳代の男女約1万2千人に「退職後のお金」についてアンケートを行ったところ、「いつまで生きるか」には、依然として「80代前半」の回答が大半だったという。野尻氏は「10年近いギャップに驚いた」と言うが、100歳はまだしも「90歳超の人生」へと、早めに意識を切り替えておいたほうがよさそうだ。
さて、「人生の終点」の予想がついたところで肝心の老後マネーである。
老後は年金収入で暮らし、受け取る年金以上のお金を使うのが普通だ。収入より支出が多くなるわけで、その差額を貯蓄から取り崩していく。従って、生きている間に取り崩す分を準備しておく必要がある。
65歳スタートで「90歳」か「95歳」のゴールで考えてみよう。計算方法は次のようになる。
収入である年金をいくらもらえるかは、年に1回来る「ねんきん定期便」でわかる。50歳超の定期便は支給額に近い数字が記載されているので、夫婦分を足せば年間の年金額が出る。企業年金などほかの収入がある場合は、それも加える。
一方、月々の支出は、現在の家計を参考に、老後にどんな生活を送りたいかを想像しながら金額を決めてほしい。これは夫婦で話し合って決めるのが鉄則だろう。月々の支出12カ月分に、国内旅行代や固定資産税など年単位でかかるお金を足せば、年間の支出額が出る。
年金額から支出額を引くと、いくら貯蓄を取り崩さなければならないかが出てくる。その金額に残り年数(この場合は25年か30年)をかけると、死亡するまでに生活費として必要になる取り崩し額が出てくる。
計算は、まだ終わらない。毎年は必要ないが、数年に1回、あるいはそのうちに必ずかかる費用があるからだ。住宅のリフォーム代や医療・介護費用、海外旅行などで、これらのイベントに必要になりそうな金額を見積もる。これに取り崩し額を足せば、老後に準備しなければならない金額になる(物価変動は考慮していない)。
注意したいのは、月々の支出一つとっても個々の家庭で金額が変わることだ。生命保険文化センターの意識調査によると、「老後の最低日常生活費」は夫婦で月22万円だが、「ゆとりある老後生活費」となると月34.9万円に跳ね上がる。要するに、必要な老後マネーは家庭ごとで異なるのだ。
とはいえ、生活レベルに応じた「目安」は必要だろう。ここからは、老後に対するさまざまな考え方と、そこから導き出される準備金額を見ていこう。