ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
ミッツ・マングローブ「南野陽子が露呈させた斉藤由貴の立ち位置」(※写真なイメージ)
ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は「類似タレント」を取り上げる。
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『類似タレント』という言葉があります。例えば、タレントAを起用できない場合はタレントB、もしくはC(優先順位はその都度変動する)に振り替えるといった具合に、見た目、スタンス、認知度、客層、時には単価(いわゆるギャラの相場)などに則した『用途別のリスト』が存在するのだとか。ほとんどのタレントは、自分が誰と、どの用途で分類されているかは知る由もありません。オンリーワンの存在と思いきや、実はどんな職業より、呆気なく替えの利いてしまうのが芸能界。いわゆる『オネエ』『ハーフ』『ママタレ』といったジャンルや肩書とは違う、独特な趣や世知辛さが入り交じっているのがこの『類似タレント』という代物であり、今日もどこかで勝手に切磋琢磨させられているわけです。
数年前、「ミッツ・マングローブの類似タレントは西川史子とLiLiCo」という噂を耳にしたことがあります。おふたりには申し訳ない気持ちでいっぱいですが、どことなく言い得て妙な味わいがあると思いませんか? 特にLiLiCoさん。確かにテレビで一緒になったことはほとんどないような。他にも、名前の字面と音数と響きが近いとの理由で「ミッツ・マングローブとナオト・インティライミは類似タレント扱いらしい」なんて話もあったとかなかったとか。ミッツ、壇蜜、光浦靖子の3人で『みつ星の館』なる番組をやったのも良い思い出です。
そしてこの度、『来期の大河ドラマ出演を辞退した斉藤由貴さんに代わってキャスティングされたのが南野陽子さん』と聞き、改めて『類似タレント』の奥底に想いを馳せている次第です。「いくら急だからって……」と思わず言いたくなる一方で、こんなにも合点のいく代役は他にありません。とは言え時代劇ですから、『斉藤由貴→南野陽子』の理由など分からない人の方が邪念なく観られるでしょう。どう考えても大河ドラマに『スケバン刑事』のコンセンサスは必要ないですから。
恐らく今回キャスティングの実権を握っていたのは40代半ば、ファミコンに熱中しながら日能研に通っていた世代だと思われます。もちろん南野陽子さんは今や素晴らしい女優です。しかしこうして『初代』の代わりに『2代目』が選ばれたことにより、斉藤由貴さんもキャスティング当初から『80年代アイドル』として捉えられていた可能性が明らかになりました。言わばこの役(篤姫の女中頭)は、NHK内にいる誰かの『80年代アイドル』に対する相当な思い入れで成り立っていると言えます。2017年の今、大河に『スケバン刑事』をチラつかせるなんて、往年のアイドルファンにとっては痺れるほどの感慨があったに違いありません。私としては、この『類似タレント』の活用法を見られただけで、すでにお腹いっぱいです。
今後も何かの折に実現して頂きたい案件として、『中山美穂→立花理佐(「毎度おさわがせします」初代・2代目ヒロイン)』と『古手川祐子→鈴木杏樹(「ミュージックフェア」5代目・6代目司会者)』を挙げておきますので、各局キャスティングチームや代理店のみなさん、是非ともお留め置きください。あと昔からずっと気になっていたのですが、元ジャイアンツの定岡正二さんとTHE ALFEEの高見沢さんも『類似タレント』ですよね?
※週刊朝日 2017年11月3日号