大切なのは、親が「元気なうち」から準備を始めること。25年にわたって高齢者と向き合ってきた、千葉県理学療法士会会長の田中康之さんは言う。
「親がリタイアする65歳ごろから準備を始めても、早すぎるということはありません。この夏の帰省で、親の今後について真剣に考えてみてください」
はじめの一歩は、自分の親は「いつまでも大丈夫」という気持ち(願望)を捨てること。冒頭の佐竹さんも、母が認知症とわかる直前まで、「大丈夫」と信じて疑っていなかった。だが、現実と向き合うことが準備の土台になる。
試しに一日、親の様子を意識しながら一緒に過ごしていろいろ話してみるといい。心身の衰えに気づくきっかけになり、情報を得る機会にもなる。例えば昔話の雑談の中で、好きな食べ物や嫌いな食べ物などを聞いておく。これは、施設に入るときや体が弱ったときに役立つことが多い。
終末期や最期の過ごし方についても、元気なうちに聞いてみよう。親がリタイアするときがそのチャンス。今や日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳。定年が65歳として、第二の人生は約15~20年にも上る。今後の過ごし方をたずねるのは不自然ではない。
自身の祖母の介護・成年後見をした経験を持ち、終活に関する著書やセミナーも多い清水晶子さん(日本クオリティオブライフ協会代表理事)は言う。
「そのとき、エンディングノートを書くのをすすめてみるのも手。自分だけでは整理しきれていないことが多いので、親子で一緒に話しながら考えてみると、先々のイメージをしやすい」
親子であっても話しづらいテーマだが、清水さんは、「死に場所を決めるのは、親がするべき最後の仕事」だと断言する。
「最期の場所は、人生のゴール地点。だから親の希望を聞くことが必須です。ゴールが決まれば、子はサポートに徹する。それが親を看取る覚悟なのです」
話しにくければ、自分の老後に対する考えを引き合いにして、聞くと良い。
「私は自分の老後や最期をこんなふうに考えているけれど、どう思う? 親父、お袋はどう?といった具合に、自分の意向を示しながら話すと、相手の意向も聞きやすい。先に自分自身の話をして、親に水を向けると良いでしょう」(田中さん)
※週刊朝日 017年8月18-25日号より抜粋