次は、幼稚園教育について。藤井四段は地元愛知で通っていた幼稚園で、「モンテッソーリ教育」を受けていた。日本モンテッソーリ教育綜合研究所の菱田茂さんはこう解説する。
「子供の自立を目指し、主体的に物事を考える能力を育みます。教具や人も含めた環境を整備して、運動機能や五感を研ぎ澄まし、一人ひとりの興味関心を尊重した教育をしていきます」
菱田さんによると、米マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏やオバマ前米大統領なども受けていたという。藤井四段のあの落ち着きや終盤戦での読みの鋭さは、この教育法のおかげなのかもしれない。
科学的根拠を求めて、著名な脳科学者たちに将棋が脳に与える影響について聞いてみた。
「将棋により『賢くなる』ことはありえます」
と分析するのは、諏訪東京理科大の篠原菊紀教授だ。どんな理屈なのか。
「将棋では、『ここでこう指したらどうなる』など、記憶や情報を一時的に保持しながらあれこれ考えるワーキングメモリ(作業記憶)という機能を盛んに使います。この機能は知的活動の中核で、脳の前頭前野という部位が関わっています。このワーキングメモリは、トレーニングを行うと伸びるとの報告があるのです」(篠原教授)
もう一点、注目すべきポイントがあるという。
「将棋では『空間認知力』を盛んに使います。天才研究では空間認知力が特許取得数などと相関するとの研究があり、大事な要素と考えられています。この点でも将棋は推奨できるかもしれません」(同)
脳科学の権威として知られる京都大学名誉教授の久保田競さんも、同じく将棋の効能に太鼓判を押す。
「将棋をするときには前頭前野を使います。ここがよく働くと、簡単にいうと、頭が良くなります」
詰将棋にも意外な効果があるという。藤井四段は幼少期から解き続け、強さの秘訣ともいわれている。
「詰将棋は駒を置いていく場所を算用数字と漢数字で表してます。数の知識を使うことで前頭前野を使い、算数の能力が高まっていく。また、数学は抽象的な概念なので抽象的な考え方も身につけられる。どういった手を打っていくか覚えていくので、記憶力も良くなる」(久保田さん)