しかし、一般に病気という認識が薄いため、記者のように自覚がないまま進む「隠れ貧血」も少なくない。『貧血大国・日本』(光文社新書)の著者で、南相馬市立総合病院の山本佳奈医師(神経内科)は、こう警鐘を鳴らす。

「特に男性は、単なる仕事疲れ、体調不良と簡単に片づけてしまい、気にしない人が多い。自分だけは大丈夫と考えるのは危険です」

 貧血の原因は、月経などの出血や過度なダイエットによる鉄不足を思い浮かべる人が多いだろう。だが、原因はそれだけではない。

「お酒を大量に飲むと、アルコールの影響で葉酸の吸収が悪くなり、貧血になることもあります」

 と指摘するのは、ナビタスクリニック新宿院長で、内科医の濱木珠恵医師だ。アルコール多飲から貧血を引き起こす主な要因は、葉酸の欠乏だという。

「赤血球が作られるときにはビタミンB12や葉酸も必要なのです。アルコールを多飲する人は葉酸の吸収が低下し、食事も偏りやすい。赤血球を作るための葉酸が体内で不足するのです」(濱木医師)

 記者の貧血の原因も葉酸欠乏と考えられた。しかしなぜ、輸血をした後で急性心不全になったのだろう。

「輸血に用いる血液の赤血球はけっこう濃いので、体に負荷がかかることも。入れるスピードが速すぎたか、頻度が多すぎたかで、心臓が耐えられなかった可能性があります」(同)

 やはり、たかだか貧血、そのうち治る、などと侮ってはいけないのだ。

 貧血は一般的にヘモグロビン値(濃度)により定義される。世界保健機関(WHO)によると、男性でヘモグロビン値が13グラム/デシリットル、女性で12グラム/デシリットル未満を貧血と呼ぶ。例えば記者の場合、入院当時の数値は4~5グラム/デシリットルだったので明らかに貧血だった。男女比は、9対1で女性が圧倒的に多いとされる。

「確かに受診者をみても男性はまれですが、働き盛りの中高年男性も注意は必要です」(同)

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