漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏は、脚本も手がけるバカリズムがOL役を演じる「架空OL日記」(日本テレビ 土曜深夜)をテーマに論じる。
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バカリズムが2006年から約3年間、OLになりきって書いていたブログ「架空升野日記」のドラマ版。それはOLの他愛もない日々を綴った日記だ。
ネタバレしなきゃ、なんのこともないブログなのに、バカリズムだとわかった途端に「これは立派な変態ですな!」と、感動すら湧き起こる仕組み。その積み重ねた年月に、じわじわと戦慄する。
ドラマで、主人公のOLを演じるのはバカリズム本人だ(脚本も)。銀行員の制服を着用、通勤時はスカートをはき、部屋着はフワモコだけど、とりたてて女っぽくしてるわけじゃない。ほぼすっぴんで、髪形もまんまバカリズムなのに、いるいる、こういうOL。
そしてブログそのままに、OLの日常が描かれる。女子更衣室で使っているヒーターが壊れて一大事。家電量販店のポイントを使って新しいヒーターを買ってくれた先輩の小峰さん(臼田あさ美)は、その後「小峰様」と呼ばれるようになる。なんて、まさにどうでもいい他人の日記を覗き見する感覚。いつもパソコンの画面を見て「ふ~ん」と言ってるのが、テレビ画面になっただけみたいな。
憂鬱な月曜の朝は、同期の真紀ちゃん(夏帆)とグチの言い合い。思わず「月曜日」を擬人化するくだりは、バカリズムっぽい。月曜日は中年のイメージ。月曜日は口が臭い、ウザい、若作り、ケチ。
よく非モテ系のOLが女子力アップのためにがんばる!なんてドラマがあるけれど、たいていそのヒロインを演じるのは、地味とはほど遠いキラッキラした女優だ。でもバカリズムの描く世界は、やるせないくらい現実的。
リップグロスを販売員に塗ってもらう時、思わず鼻息を止めてしまうこと。脱毛サロンは「輪ゴムでパチンと弾かれたくらいの痛み」だけど、実際輪ゴムで手の甲を弾いてみたら、脱毛より痛かったこと。どのエピソードもテレビの中のこととは思えない。
そんなOLたちのひたすらリアルな女子更衣室。でも、この中の一人、本当はおっさんなんですよ。エステ話とかキャッキャ言ってるおっさんですよ。そう意識して見た瞬間、画面は果てしなく不条理な世界に転換する。丹念に積み上げたリアルの中に、あらかじめ仕掛けられたバカリズムの罠、恐るべし。
※週刊朝日 2017年6月9日号